green mist      ~あなただから~

秘めた感情

 ~香音~

「おはようー、香音。ちょっとぉ。あんな素敵な人が居るなら、早く言ってよ。いつ、どこで知り合ったの~ 教えなさいよ~」

 陽気な声がしたかと思うと、背中をバシッと叩かれた。


「おはよう…… 何のことかしら?」

 綾乃の声に振り向いた。


「ぎょえー。どうしたのよ! 目の下のクマ凄いけど……」

 綾乃が化け物でも見たような顔で、逃げるように後ろに下がって行った。


「うわーん。聞いてよーーー」

 綾乃の顔を見たら、堪えていた涙が込み上げてきた。そのまま、胸にしがみついた。


「わかった、わかった。聞くから離れて……」



昼休み……

 会社の目の前にある公園のベンチで、コンビニで買ったサンドイッチを広げた。合コンの後のいきさつを、テンション上がったり,泣きが入ったりと説明する。


「うーん。結局、その弁護士には彼女が居たって事?」

「わからないけど、頭が良さそうで綺麗な人だった。あんな人達が、周りにいると思ったら、自分がちゃんちゃらアホに見えて」

「まあ、確かにアホだけど…… 彼だって困惑しているんじゃないの?」

「どうして彼が? 私は、必死にいつも通りにふるまってきたのよ」


「でも、以外にわかるものよ。だいたい、彼だって、合コンの時、あの怪しい弁護士志望の男から、香音を守っているように見えたけどね。どっちにしたって、その気がないなら映画になんて行かないよ」


「だって十歳以上も年上で、しかも弁護士だよ。私なんかと一緒にいたら恥ずかしいじゃない」


「ふうー 彼も同じ事思っていたりして。こんなおじさんと一緒じゃ、恥ずかしいとかさ」


「そんな事あるわけないじゃない。背も高くて、穏やかな優しい笑顔で、頭も回るし。恥ずかしいわけなんて……」

「だったら、そう言えばいいじゃない」

「そんな事を言ったって、困るだけじゃん」


「映画のお礼の電話かメールしたんでしょ? どんな感じだった?」

「してない……」

「はっ? なんで? 彼だって待っていたかもしれないじゃない。だいたい、どうしてそんな非常識な事するのよ」


 分かっている。何度もメッセージの入力をしたけど、お礼の文章でさえ迷惑な気がした。電話なんてしたら、余計な事を口ばしりそうで…… スマホを握ったまま、一晩過ぎてしまったのだ。

 サンドイッチをパクリと口に入れたが美味しくない。
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