green mist      ~あなただから~
 「ここにいたのですか?」

 恐竜のぬいぐるみを抱え、睨めっこしている彼女に向かって言った。彼女を見つけられた事にほっとしたのだが……

「お話し中だったので、先に見ていようと思って」

 一瞬だが、彼女は俺と目を逸らした。だが、すぐに彼女は笑顔に戻った。なんだかさっきまでの笑顔と違うのは気のせいだろうか?


「声をかけて下さいよ。遅いので心配しました」

「ごめんなさいい」

 すぐに謝られて、何も言えなくなってしまった。

 彼女の抱えている恐竜のぬいぐるみと同じ物を俺も手にした。こうして見ていると、さっきの愉快だった時の証のような気がしてきた。

「なんだか親近感が沸きますね。記念に買いましょうか?」

「えっ? ぬいぐるみをですか?」

 彼女は驚いていたが、その顔も悪くはない。


「僕だって、ぬいぐるみぐらい買いますよ」

 もちろん俺が払うつもりだったが、彼女が折れてくれないので、お互いの分を買う事にした。当然嬉しい気持ちもあるが、なぜか彼女との距離を感じてしまう。

「次は、どこを見て回りますか?」

 彼女が欲しい物があると言っていたので、当然のように聞いた。

「ああ…… さっき、お店を見たんですけど…… 思っていたものと違ったので。今日は、いいです」

 もう、見てしまったと言う。


 どこが? と言われると、答えられないのだが、食事をしていた時の彼女と違う。

「それでは、別の所へ行きましょうか?」

「そうですね…… でも、夕方、母が来る事になっているんです」

 ええーー。そんな事、言ってなかったじゃないか。

 やっぱりおかしい……

 俺の予定が、どんどんと崩れて行く。夕食も一緒にと考えていたのに、まだ、太陽がまぶしい時間に、彼女をアパートに送り届ける事になってしまった。
 
 本当は、もう少し話をしたかった。何故なら、新しい案件が入り、銀行へはあまり行けそうにないからだ。もしかしたら、そんな事を気にしているのは俺だけで、彼女にしてみればたいした事じゃないのかもしれない。

 でも、何故急に彼女の様子が変わってしまったのだろうか? 

 一緒にいて、年の差を感じて、つまらなかったのだろうか? やはり若い人の方が、一緒にいて楽しいのだろうか?

 妙に落ち込んでいくが、彼女に聞く勇気も無かった。
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