あと5分!【奈菜と南雲シリーズ④】
「嘘ついてどうすんだよ。今ちょうど10時。待ち合わせの時間ピッタリ。朝お前から【今から出る】ってメッセージが来た時にはびっくりしたよ。俺が待ち合わせの時間を間違えてんのかと思って」
そうだ。今日は二度寝から飛び起きて、テレビもスマホもろくに見なかった。部屋の時計はアナログだから、短い針の場所までちゃんと見なかった気がする。
「はぁ~、おかげで俺は急いで準備して駅に向かって走ったってわけ」
「ご……ごめんなさい」
衝撃の事実に、項垂れる。
まさかあんなに一生懸命走ったのに、それが1時間も前だったなんて。
「1時間勘違いするなんて、ハチらしいな」
「うっ……」
「そんなに楽しみにしてたのか?俺とのデート」
「ううっ……」
それは間違いではない。楽しみ過ぎてなかなか寝付けなかった。そのせいで、うっかり二度寝してしまったのが一番の失敗だ。
だけどからかわれたのが何だか癪で、せめてもの反抗にじろんと睨み上げてみた。
「おまっ、その顔……、また煽ってんの?」
「あおっ、…てなんか、ない……も、もう大丈夫。落ち着いたし」
南雲の胸を両手で押し返しながら言う。なのに南雲はなかなか腕を解いてくれない。
「な、南雲?映画……行くんでしょ?」
「んー……もう少し」
「もう少しって……」
「あと5分だけ、こうしてろ―――な?」
耳元で低く囁かれて、背中に回る腕が緩く締まる。
『あと5分』
なんて甘美な響きなんだろう。
答えを口にする代わりに、私はおずおずと南雲の背中に腕を回した。
背中のシャツをぎゅっと握ると、私を抱きしめる腕もぎゅっと強くなる。
どちらのものか分からない鼓動を聴きながら、温かな腕の中で『あと5分』を噛み締めた。
【了】
そうだ。今日は二度寝から飛び起きて、テレビもスマホもろくに見なかった。部屋の時計はアナログだから、短い針の場所までちゃんと見なかった気がする。
「はぁ~、おかげで俺は急いで準備して駅に向かって走ったってわけ」
「ご……ごめんなさい」
衝撃の事実に、項垂れる。
まさかあんなに一生懸命走ったのに、それが1時間も前だったなんて。
「1時間勘違いするなんて、ハチらしいな」
「うっ……」
「そんなに楽しみにしてたのか?俺とのデート」
「ううっ……」
それは間違いではない。楽しみ過ぎてなかなか寝付けなかった。そのせいで、うっかり二度寝してしまったのが一番の失敗だ。
だけどからかわれたのが何だか癪で、せめてもの反抗にじろんと睨み上げてみた。
「おまっ、その顔……、また煽ってんの?」
「あおっ、…てなんか、ない……も、もう大丈夫。落ち着いたし」
南雲の胸を両手で押し返しながら言う。なのに南雲はなかなか腕を解いてくれない。
「な、南雲?映画……行くんでしょ?」
「んー……もう少し」
「もう少しって……」
「あと5分だけ、こうしてろ―――な?」
耳元で低く囁かれて、背中に回る腕が緩く締まる。
『あと5分』
なんて甘美な響きなんだろう。
答えを口にする代わりに、私はおずおずと南雲の背中に腕を回した。
背中のシャツをぎゅっと握ると、私を抱きしめる腕もぎゅっと強くなる。
どちらのものか分からない鼓動を聴きながら、温かな腕の中で『あと5分』を噛み締めた。
【了】


