ポケットにあの日をしまって
「わたしも骨折なら良かったのに……」

不意に愚痴ってしまって、不思議に思ったに違いない。

なのに、「辛い時は愚痴ってもいいんじゃないか。俺で良ければ聞いてやるよ」と、気が抜けるほどあっけかんとして言った。

楽観主義で明るい人だ。

時々、帰りが一緒になったり、病院の待合室ったりし、駅までの道すがら、読書の話をすることもあった。

仁科くんから本のタイトルを聞くたび、「あっ」と思ったが、仁科くんが楽しそうに本の内容を話すのが楽しみだった。

「その本、わたしも読んだ」と毎回、言いそびれた。
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