ポケットにあの日をしまって

茉莉side

仁科くんから、貸出しカードのことでメールをもらった。

ーー今まで気づかなかったの? わたしはずっと前に気づいていたのに

そう思うとひと言、言いたくなった。

体育の時間や部活でサッカーをしている時はあんなに機敏で、咄嗟の判断だって鋭いのにと思う。

仁科くんはお母さんが退院した後も、時々お母さんの通院に付き添っていた。

病院の待合室でお母さんのリハビリが終わるまで、本を読んで、時間潰しをしていた。

「何を読んでいるの?」

本読みをしている仁科くんに、よく声をかけた。

本のタイトルを聞くたび、笑みがこほれた。

仁科くんには会うたび、落ち込む気持ちや辛い思いを打ち明けた。

仁科くんは大抵、聞き役で、1通り話すと「スッキリしたか? いつでも楽になるまで吐き出していいぞ」と言ってくれた。

仁科くんが放課後、サッカーをしている姿を観るたび何かお礼ができたらと思っていた。
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