結婚契約書に延長の条文はありませんが~御曹司は契約妻を引き留めたい~

そして二人は


あれから和海とは何度も体を重ねた。それでも普通の新婚夫婦にしては少ないと思う。

可奈子の結婚式は、ひと昔前のたった数時間の挙式と披露宴に数百万を注ぎ込んだものほど派手ではなかったが、心温まるものだった。両親への感謝の言葉と友人達の祝福に満ちた結婚。

それに比べ写真と婚姻届一枚を提出した自分の結婚。

篝の財力ならどんな式でも行えることはわかっているが、初めから望んではいなかったし、そこにお金を掛けることに拘りはない。
それに、終わりがわかっている結婚式で、末永く幸せにと、皆から祝福の言葉をもらうのは心苦しかった。
最初から離婚することを考えて結婚する人物が、この世にどれほどいるだろう。
お互いに好き同士で結婚しても、離婚することはある。政略結婚同士の夫婦だって、結婚生活を継続させようと努力していくはずだ。
結婚して一年後、和海は祖母の株を譲り受け、専務取締役に就任した。その頃から彼はこれまで以上に多忙を極めるようになった。
彼が専務取締役に就任し、付いた秘書がさっきの大原麻紀子だった。
彼女とは殆ど電話でしか話したことはなかったが、会社主催のパーティーで一度見たことがある。すらりとした体型の美人秘書を絵に描いた様な人だった。

「専務、申し訳ございません。呉林物産の社長が是非ともお話したいことがあるとおっしゃっています」

パーティが始まってすぐに、彼女が和海を呼びに来た。

「そうか。すまない香津美」
「いえ、私のことは気にしないで」

和海の仕事のことは何一つ知らない香津美は、彼がいなくなると途端にひとりぼっちになった。

「奥様、ここにいても退屈でしょう。取締役が車を手配するようおっしゃいましたので、先にお帰りになられてはどうでしょうか」

暫くは飲み慣れないシャンパンをちびちび飲んでた。そこへ彼女がそう言ってきた。

「でも、まだ始まったばかりですし・・・」

さすがに専務取締役の妻がすぐにパーティーを辞したとあれば、招待客に失礼では無いだろうか。

「先代の奥様もそうなさっていましたよ。専務はまだ大勢の方とお会いしなければなりませんし、仕事関係の方のお相手なら、秘書の私がいれば充分ですから」

彼の仕事関係で私が役に立つことは何もないことはわかっている。それでも妻として少しでも何かできればと思ったが、彼には余計なお世話なのだろう。

和海の方を見ると、外国の人と話をしている。

「じゃあ、挨拶を・・」
「こういう場ではそっと抜ける方がよろしいかと。帰った方がいいと私に伝えるようおっしゃったのは専務ですから。わざわざ挨拶する必要はありませんわ」
「そういうものなの」

大きなパーティーと言えば、大学の謝恩会くらいしか経験がない香津美には、こういった場所でのマナーはよくわからない。
慣れている彼女がそう言うなら、そうなのだろう。

「では、失礼するわ。後のことはよろしくお願いします」
「お任せください」

もう一度和海の方を見ると、大原が彼に何か言っているのが見えた。
彼の耳元で何やら囁く彼女を見て気落ちがざわついた。それから彼はこちらを見て、軽く頷いた。
香津美が帰ることを聞いて、わかったと言っているのだろう。
大原が動いて、彼女の体で和海の姿が見えなくなった。

そのまま香津美は帰宅し、真夜中まで彼が帰ってくるのを待ったが、結局和海が帰ってきたのはかなり午前二時を回った頃で、香津美は既に眠ってしまっていた。
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