甘い災厄

 ぼーっとしたまま歩いていると、背が高くてミルクティみたいな髪色の人、と頼りなさそうな黒髪で少し金髪混じりの男の人に会った。
髪色が明るい方はどこか面影がまつりに似ている。相手もこちらに気がついたように、よっ、と手を振ったり、こんにちはと頭を下げた。
まつりがにこっと笑って言う。
「久しぶりだね、コウ」
コウと呼ばれた人は、一瞬、考えたように黙ってからまた口を開く。
「あぁ、なんだ、佳ノ宮のとこの神童ちゃんかぁ」
鏡かと思った、とその人は真顔で言う。

「大人びちゃったもんだね」
「コウは、平気だった?」
まつりは切り返す代わりに質問をした。ぼくはぼんやり二人を眺めている。それは、黒髪金髪のひとも同じみたいだ。
「あ。変わった髪型に見える?」
その人が、場を持たせるためか声をかけてきた。昔ちょっとだけ読んだ、フランスの魔法使いの本を思い出した。
「この髪はバチバチ音が立ったり煙が出たりしないよ」
思ったことが口に出ていたのか、その人が穏やかに答える。

「ななと」

まつりが呼んだ。
ぼくはまつりを見上げる紹介してくれるらしい。

「こっちは、穂始上家の人で、今は名前違うんだっけ……とりあえず、コウっていう親戚。それからこっちの人は」

「俺は……なんでもいいよ」
「え?」













「ごめんよ、少年ちゃん」
コウさんが、ぼくを見て申し訳なさそうに言った。

「彼は、少し、ワケありでね。レイちゃんって言うんだけど、少し辛いことに巻き込まれたばかりだから、たまに疲れてる」

「そうなんですか」

あまり立ちいらないでおこう。

「二人とも、こんなとこで何してるの」

まつりが聞くと、コウさんがきみたちと同じで観光だよ、と言った。
今回はよく、まつりの知人に会うなぁ。

「あと、きみも知っての通り、寄生虫の調査をしてるよ。
最近、新たにヤドカリから検出されてるよ。

やつらは、内蔵だけ食べるからね。

どの部位が一番好きかなと肉をいろいろ並べてみたんだが、牛肉が好みらしい」

おっと、これはまだ独自に探している段階だから話しちゃだめだぞ、とコウさんが言う。








「サンプルがあるの?」

まつりが言うと、コウさんはにっこりと微笑んだ。
「まだ本来の姿自体は、わかっていない。

小学校のヤドカリが奇妙に踊りだしたとき、

ちょうど、捕獲しようとしていたレイちゃんが、うっかり襲われたくらい」

「コウは」

「はぁーあ、

見返りないボランティアにたいして、仕事が遅いって言うやつがいて、

ストレスがたまるよ……」
「無理矢理、状態を隠してない?」

「まぁ……この話は別の機会にしよっかぁ」

コウさんは、楽しくもないからねと話を切り上げた。

「せっかく会ったのだし、お茶でも飲もう?」























2019.6/1911:03


――あとは特筆することもなく、ぼくたちはバスに乗って帰宅した。
もちろん、こんな時間がぼくらに続くのは間違いであり、みんなのお楽しみの時間が迫っていることは家に近付くにつれて、薄々、覚悟していた。

ミニまつりさんは、ずっと手に握っていた。
そう。

ぼくは。
『だから嬉しかった』のだ。



それは、バス停から降りて、家へ続く坂道の途中だった。

「ぐ……――」


まつりは、急に頭を押さえた。
「あ……ああああああああああああああ……」


頭を押さえて、踞る。
まつりに、認識しきれるわけが。記録しきれるわけが。
耐えきれるわけがないから。
だから、たった一人を、そいつの感情が背負えるのはわずかな時間だけだった。

「……な、なと」

まつりは、かすれた声でぼくを呼ぶ。

ぼくは、ただ立ち尽くしたままうつむいていた。
泣きたかったのかもしれないが、泣くことができなかった。
なんて喜劇だ。

「っ、は――――――」


心臓を掴むように、胸のあたりに片手を置いた。
片手は、頭に当てたままだった。

「あ、がっ……あ……」

ガタガタ、歯の根が合わないみたいにそいつの口が震えた。
マシになった方で、昔はほぼ、ぼくの全てがデリートされていたのだが、今は、そう、半分くらい思い出が消える程度のものである。
















さぁ、やってきた。

誰かが待ちわびた、

この時間

     ◇



「お似合いなのかもね――」

ぼくに、幸せはある。

形さえなければ。形さえ、求めなければ。
そいつの鞄を勝手に探り、常備していたカプセル(水無し一錠)を、ぼくは自分の口に含んだ後、震えているそいつに与えた。
「……、……、……」


タイムオーバー、それから、新たな始まり。
かくん、と身体から力が抜けて気を失ったそいつを抱えて、ぼくらは帰路につく。


「楽しかったよ、ご主人様」


すやすやと寝息を立てているそいつに聞こえない声で、あえて告げておいた。


いつも、楽しいんだ。
思い出なんか特別でなくて構わない。
――ぼくは、いつだって、幸せなのだから。






Happyend!

20196/1911:17

おまけw



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