【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?
「平気だ。ミリィ、オレの事よりも周りに注意を向けろ!」
呼吸は荒いし汗だくで明らかに不調なのに、アスター王子はそうわたしを叱責した。
「騎士は、仲間の一人よりもより多くの命を助けるべきだろう!行け!!」
「……っ、はい!」
そうだ。
騎士を目指すならば、より弱い人々を護るべきだ。
アスター王子に叱られ、目が覚める思いがした。
「きゃあああ!」
王女殿下のお住まいの近くだからか、女官や侍女十人以上いてパニックに陥っている。
当たり前だ。あんな巨大なドラゴンが間近に見えて、さらにブレスで吐いた炎が庭園のあちこちを燃やしている。
「走らないでください!そちらは危険ですから…止まって!近衛兵、早く止めて!!」
女官の一人がパニック気味に、むちゃくちゃな方角へ走り去ろうとしていた。わたしが命じて慌てて近衛兵が手を伸ばすも…彼女はスルリと抜けて、見当違いな方へ走った。
「いやぁああ!殺される!!助けて!」
無理もない。
ドラゴンの襲撃という非常事態な上に、近衛兵は顔まで覆うフルプレートアーマーと武器という完全武装。炎の中でそんな威圧的な姿を見れば、気が弱い人ほどパニックになるだろう。
「止まって!そちらはドラゴンが…!!」
ドラゴンが次のブレスを吐くべく、口を大きく広げてその奥に紅く燃える炎が見えてきた。
「くっ!」
間に合わないかもしれないけれども、わたしも猛ダッシュで女官を追いかける。けれども、距離がありダメかと思いかけた刹那ーー
「アニスよ、止まれ!!」
鋭い命令が飛んだ瞬間、女官の足がピタリと止まった。