私を愛するその人は、私の向こうに別の女(ひと)を見る
土曜日、瑞斗さんは「どうしても外せない商談がある」と、仕事にでかけた。
「適当に過ごしてて」
そう言われても、お部屋にお邪魔している居候の分際でくつろげるわけもない。
仕事の特技を活かそうと、私は部屋の掃除をすることにした。
けれど、窓も床もキッチンも、風呂も洗面台も、驚くほどに綺麗だった。
いつも一緒にいるはずなのに、いつ掃除してるんだろう……?
そう思ってしまうほどに。
寝室も覗いたが、もちろん同じだ。
結局やることもなく、ため息を零す。けれど、寝室を出たところで、もう一つの扉が目に入った。
『汚いから、あんまり入らないで』
瑞斗さんがそう言っていた、彼の書斎だ。
「掃除するくらいなら、いいかな?」
私はそんな軽い気持ちで、その扉を開いた。
***
そこは、書斎というよりは、物置のようだった。
積み上げられたダンボールと、その奥にひとつ本棚がある。申し訳無さそうに机と椅子があるが、その上もダンボールが置かれていた。
その中身を、埃を払いながらそっと覗いてみる。それらは、ほとんど本だった。経済学、分析学だけでなく、よくわからない名前の物質についての本まである。
「書斎っていうより、勉強のための読書スペ―スって感じか……」
商社マンという仕事はよく分からないけれど、沢山の契約を結んでくると噂の瑞斗さん。
それは、彼の努力の賜物なのだと、ここにいると分かる。
王子のような笑顔の裏で、とても努力家の彼。まさに絵に描いたような、出来る大人。キラキラした世界の人。
それに比べて、私は、掃除しかできない、生きている価値もない女。
自分がとても惨めに思えて、思わず掃除の手を止めた。
そもそも、私が“アリサ”さんに似ていなかったら、私はここにいられなかった。
この世界は、本来私とは交わることのない世界だ。
その場にへたり込むと、ため息が漏れて、それから涙が溢れそうになった。
どうにかこらえて、上を向いた。すると、奥の本棚が目に入る。そこに置かれていたのは、背表紙のない本たちだった。
「これは……」
何かに惹かれるように、私はそっとその本に手を伸ばした。
「適当に過ごしてて」
そう言われても、お部屋にお邪魔している居候の分際でくつろげるわけもない。
仕事の特技を活かそうと、私は部屋の掃除をすることにした。
けれど、窓も床もキッチンも、風呂も洗面台も、驚くほどに綺麗だった。
いつも一緒にいるはずなのに、いつ掃除してるんだろう……?
そう思ってしまうほどに。
寝室も覗いたが、もちろん同じだ。
結局やることもなく、ため息を零す。けれど、寝室を出たところで、もう一つの扉が目に入った。
『汚いから、あんまり入らないで』
瑞斗さんがそう言っていた、彼の書斎だ。
「掃除するくらいなら、いいかな?」
私はそんな軽い気持ちで、その扉を開いた。
***
そこは、書斎というよりは、物置のようだった。
積み上げられたダンボールと、その奥にひとつ本棚がある。申し訳無さそうに机と椅子があるが、その上もダンボールが置かれていた。
その中身を、埃を払いながらそっと覗いてみる。それらは、ほとんど本だった。経済学、分析学だけでなく、よくわからない名前の物質についての本まである。
「書斎っていうより、勉強のための読書スペ―スって感じか……」
商社マンという仕事はよく分からないけれど、沢山の契約を結んでくると噂の瑞斗さん。
それは、彼の努力の賜物なのだと、ここにいると分かる。
王子のような笑顔の裏で、とても努力家の彼。まさに絵に描いたような、出来る大人。キラキラした世界の人。
それに比べて、私は、掃除しかできない、生きている価値もない女。
自分がとても惨めに思えて、思わず掃除の手を止めた。
そもそも、私が“アリサ”さんに似ていなかったら、私はここにいられなかった。
この世界は、本来私とは交わることのない世界だ。
その場にへたり込むと、ため息が漏れて、それから涙が溢れそうになった。
どうにかこらえて、上を向いた。すると、奥の本棚が目に入る。そこに置かれていたのは、背表紙のない本たちだった。
「これは……」
何かに惹かれるように、私はそっとその本に手を伸ばした。