私を愛するその人は、私の向こうに別の女(ひと)を見る
 細身だと思っていたのに、筋肉質な身体。
 思わず見惚れてしまって、慌ててブンブンと頭を振った。

 どくんと心臓が高鳴ったのは、きっと男性の上裸を見るのが中学の水泳の授業以来だったからだ。

 そんなことを思っていると、彼は不意に私の隣に腰掛ける。そしてそのまま、チュッと頬にキスをした。
 くすぐったくて思わず肩をピクリとさせると、彼はまたクスっと笑ったらしい。うつむく私の頭を撫でて、そのままゆっくりと優しく、私をベッドに押し倒した。

 突然視界に映る天井。その前で、私に覆いかぶさる瑞斗さん。その構図だけで、私の心臓はおかしいくらいに暴れだす。
 その艶っぽい瞳に見つめられれば、どうしても身体がこわばってしまう。

「大丈夫、僕に身を任せて」

 瑞斗さんはそう言って、私の両手に自身の指を絡ませた。その手をキュッと握ると、握り返してくれる。

 そのまま私の顔に近付く、瑞斗さんのどアップ。
 ぎゅっと目を瞑れば、優しくチュッと、その温もりが唇に触れる。

「あ、あの……!」

 耐えきれなくなって、思わず声を出した。

「えっと……」

 視線を彷徨(さまよ)わせた。瑞斗さんの視線を感じたけれど、目を合わせられない。

「ごめんなさい、こういうの、私、初めてで……その……」

 しどろもどろになってしまった。
 チラリと目だけで彼を見ると、はぁ、とため息を漏らす瑞斗さん。

 こんな女で、ごめんなさい。

 さっきまでの、色気のないどころか貧乏くさい、ジーンズとパーカー姿の自分を思い返した。

 目の前の瑞斗さんは、「そっか」と言うと、いつの間にかいつもの王子の笑みを浮かべ、私の頬に優しくキスを落とした。
 それが申し訳なくて、思わず涙が溢れた。

「怖い……?」

「いや、怖いとかじゃなくて……その……」

 私は、気付いてしまった。
 彼が、私を『好き』だなんて言ったのは、きっと私が彼の想い人に似ているからだ、ということに。

 その人は、あの紙切れに“大好き”というメッセージを残した、彼女だ。

 そうじゃなきゃ、こんなの、おかしい。

 繋いだ手をほどいた彼は、私の頬に指を滑らせ、その親指の腹で涙を拭ってくれた。
 その温もりは、きっと私がもらっていいものじゃない。

 彼は、私の向こうに、私じゃない(ひと)を見てる。
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