ハズレの姫は、獣人王子様から愛されたい〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜
 メイナードが浴室から出ると、次にルシファが入り、その後シリルが浴室へと向かった。

 シリルが部屋へ戻ると、一つ一つ離れて置いてあったはずのベッドが、三つピタリと並べて置き直されていた。

(こんな事をするのはメイナードしかいない。
何の為にくっ付けるんだ……男三人寄り添って寝るつもりなのか⁈)


 首にタオルをかけたまま立っていると、すでに中央のベッドに寝そべっているメイナードが、指をクルクル回して赤い光の輪を出し、シリルへと投げた。
 それがシリルのまだ濡れた髪に当たると、フワッと風が起こり髪が乾いていく。
 こういった簡単な魔法がシリルには難しい。彼が同じ事をすれば、旋風が起きてしまい部屋は悲惨な事になってしまう。

「……ありがとう」

「どういたしまして、じゃあシリルはここね、俺の右側に寝て」

 メイナードはベッドをポンポンと叩く。

 髪を乾かして貰ったし、もうベッドを動かすのも面倒だ……それにルシファはすでに、ベッドに横になって本を読んでいる。
 シリルは、メイナードの右側に少し離れて横になった。

「ねぇ、シリル兄様」
「……やめろ」
「さっき言ってた『告げてない』って何?」
「はっ? お前、風呂に入っていたんじゃないのか⁈」
 
 背を向けて寝ていたシリルは起き上がり、仰向けで両手を胸の上に組んで寝ている、メイナードを見る。

「僕、耳すご~く良いからね」

 パチパチと瞬きをするメイナードは、ワザと長い耳もピクピクと動かしふざけて見せた。

(かわいいと思ってやっているんだろうが、メイナードは男だ。可愛くはない……)と、シリルは目を顰める。

 そんな二人のやり取りを、ベッドサイドの明かりで本を読みながら聞いていたルシファは、読みかけの本を閉じ、シリルに目を向けた。

「告げるって、尻尾で声が聞こえるって事を言うの?」

 そうルシファが話すと、メイナードはガバッと起き上がり、目を丸くした。

「えっ! 何それ、そんな面白い事出来るの⁈ 凄いなシリル兄様!」
「やめろ」
「僕のも聞いてみて!」

 メイナードは、無理矢理シリルを横向きに寝かせると、片手で尻尾をキュッと握り目を閉じた。

「…………」
「……どう? 聞こえた?」

 シリルは目をギュッと閉じた。
 どうしてこんな事をしないとならないんだ……。

「……何も聞こえない」
「本当?」
「『おやすみ』か?」

 メイナードは尻尾から手を離し、つまんねーっと言いながらシリルに体を寄せた。

「おい! 近い、もっと離れろ」

 リラなら嬉しいだけだが、メイナードは気持ち悪いだけだ。なんで男同士でくっ付かなきゃならないんだ!

「その声って、リラ様の声しか聞こえないの?」
「……今のところ、そうだ」
「不思議だね、何かありそうだけど」
「そんなの俺にも分からない、それよりメイナード、もっと離れろ」

 尻尾にピタリとくっ付くメイナードが、シリルには気持ち悪くて仕方ない。

「いいじゃないか、知らなかったよ、尻尾ってモフモフであったかいんだね。あ、ルシファももっと僕に寄って」

 メイナードは指先をクルクル回し、ルシファの体を自分に寄せる。

「やめてよ」

 ズッ、とメイナードの方へ引き寄せられたルシファは、心底嫌そうに言った。

「いいじゃないか、昔はよく一緒に寝てただろう? それに、兎は一人だと寂しくて泣いちゃうんだぞ」
「聞いた事ないよ」
「俺も、初めて聞いた。……はっ、まさかお前、そう言って女性を口説いているのか⁈ 」

「うん、大抵の女の子達は『泣いちゃうの? かわいい』って潤んだ瞳で僕を見て、抱きついてくるんだ。ま、そこからは当然の様に甘い夜を過ごすんだけど……ふふふ」

 シリルとルシファの尻尾を両脇に抱え、メイナードは目を閉じた。

 ルシファは、これ以上メイナードに言っても同じ事だと諦めて、寝ることにした。
けれど、シリルは抵抗する。

「離れてくれ」
「いいじゃない、寒いから一緒に寝よーよ。何もしないからさ、ねっ? シリル兄様」
「何もしないって、当たり前だ。それから『兄様』はやめろ」
「もう、照れ屋さんだな。おやすみシリル兄様」
「また……」

すぐに、寝息が聞こえ出した。

(嘘だろ? もう寝たのか?)

 二人の尻尾を抱えたまま、メイナードは落ちる様に寝た。



 そうか、メイナードはここまで一人で御者をして来たんだ、さすがに疲れていたんだろう

 ……いや、あれだけ歌っていれば、疲れるのは当然だ。

 だが、メイナードの歌のお陰で、リラの笑顔も見られたし……。


 リラ、今どうしているだろう……。

 寒くないだろうか……俺が隣に寝ていなくて……。


 ……リラ。



 ーーーードンッ!

「ぐはっ!」

 リラの事を考えていたシリルの背中に、寝ているメイナードの蹴りが入った。

「もーっ! メイナード何なんだよっ!」

 ルシファは背中に頭突きをもらい、寝ているところを起こされた。

 寝相悪すぎるだろ……。

「モフモフ……うふふ」

 気持ち悪い寝言をいいながら、スヤスヤと眠るメイナードをルシファが魔法を使い、一つのベッドに寝せる。それから、他の二つのベッドを離し、元の位置に移動させた。

「ありがとう、ルシファ」
「うん、おやすみシリル兄さん」

 やっとゆっくり眠れる……。

 ようやく落ち着いて眠りについたシリルとルシファだったが、その一時間後にメイナードの
「もっと、右だよ! ほら、飛んでるっ!」という訳の分からない大きな寝言によって、起こされる羽目になるのだった。
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