怜悧な外科医の愛は、激甘につき。~でも私、あなたにフラれましたよね?~
はぁ、自分から食事のお世話をすると言ったものの……今夜から何を作ろうかな。

ちゃんと栄養のある食材を使わないとスタミナつかないし。

今日もメルディーはお客さんで賑わっていて、とても病院内とは思えない雰囲気だ。
そんな中、私は厨房でチャキチャキと手先を動かして、高速でりんごの皮を剥きながら頭の中はまったく別のことを考えていた。そのとき。

「真希? ねぇ、真希じゃない?」

「え?」

オープンキッチンのカウンター越しに声をかけられ、下げていた目線を跳ね上げると目の前にパリッとスーツを着こなした女性が立っていた。

「……由美?」

色白でキリッとした利発そうな目。そしてキャリアウーマンっぽく長い髪をきっちり結い上げて身長もスラッと高い。凛とした美人顔で私に微笑んでいるのは高校の同級生で仲のよかった秋山由美(あきやまゆみ)だった。

「病院のレストランで働いてるって言ってたけど、なんだここの病院だったのね」

「うん、そうなの。久しぶりだね。元気だった?」

「もちろん元気よ。真希も相変わらずだね」

高校の時は仲が良かったとはいえ、卒業して進路が別々になると次第に疎遠になっていくものだ。由美とは去年結婚した友人の披露宴で偶然再会した。疎遠になっていた時間を埋め合わせるように話が盛り上がり、披露宴が終わってからふたりで飲みに行った。それからたまにメールのやり取りをしていたけれど、実際会うのは半年ぶりだ。

「そういえば由美の仕事、MRって言ってたよね?」

MRとは、医師に自社の薬の成分や使用方法、効能などについて説明し、副作用や認可前の薬の情報など、カタログや医薬書に記載されていない薬の情報を伝達する専門職のことだ。欧米では医療チームとしても認識されているという。
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