もっと求めて、欲しがって、お嬢様。
『すみません…!』と、大袈裟なくらいにガバッと頭を下げられる。
それだって落ち着いたスマートさが求められる執事からは程遠い動きだ。
碇 章太郎(いかり しょうたろう)。
この不安すぎる男が今日から、私、九条 理沙(くじょう りさ)の専属執事となった。
『うわっ…!虫だっ、虫です理沙お嬢様…!!お下がりくださいっ、うわぁぁあっ』
『…碇、それは蝶々よ』
『えっ、蛾じゃないんですか…?』
『ほら、止まったときに羽が開いてる。それは蝶々なの』
淡い色の羽をした蝶々を蛾とまちがえて、虫に怖がる女の子よりもバタバタ動き回って。
私より知識が浅く、臆病者。
『…碇、カモミールティーには砂糖を入れてっていつも言ってるでしょ』
『あっ!しっ、失礼いたしました…!すぐにっ、すぐに取り替えてきます!!』
『なんで取り替えるのよ。わざわざ淹れたのに勿体ないわ』
『ひいっ、すみませんっ』
物覚えも悪く、真面目すぎるのがたまにキズでもあって。
少し睨めばビクッと肩をすぼめる小心者。
そして極めつけは……。