もっと求めて、欲しがって、お嬢様。
そしてひとりの生徒が「執事とやるのがいちばんいいんじゃないの?」と、提案したことにより。
お嬢様×執事で練習しましょうということになってしまった……ぽくて。
「ハヤセっ!」
「エマお嬢様、俺に合わせてくださいね」
「うんっ」
すっごく嬉しそうだ。
あの子はほんっとに顔に出てしまうタイプだから、逆に潔い。
エマが執事の早瀬さんを大好きなことは、このクラス全員が公認していることでもあって。
でもそれは“Sランク執事を持った自慢として”なんて思っているのだろうけど。
そうじゃないところを知っている私からすれば、やっぱり見ていて複雑だったり…。
「…理沙お嬢様」
そんな私は、どうしてか執事の手を取れないまま固まってしまっていた。
不安げに名前を呼んでくる碇の目を見ることすらできなくて。
「九条さん?もうみんな始めてるわよ?」
「…はい」
なかなか動かない私を見た先生からも指摘されてしまう。
今までどんな顔で碇のことを見ていたんだろうって、わからなくなった。
彼が私をどんなふうに見てくれていたのかも、わからなくなった。