このキョーダイ、じつはワケありでして。
「残念ながら親の顔ならそっちに飾ってあるよ」
リビングの横に広がる畳の部屋。
ほんのり焦げ目のついた焼き鮭をほぐしながら言うと、兄は仏壇を開いて、並べられている2つの遺影を前に正座した。
そっと両手を閉じて目をつむる横顔は、8歳離れた実の妹ながらわりと整っていると毎回思う。
「母さん、父さん。慶音はもう高校生になったよ。ほんといろいろあっという間でさ。反抗期ではないけど、最近ちょっと生意気っていうか、クールビズすぎるとこがあるから兄ちゃん困って───」
「長すぎてふたりとも飽きたって」
「…ね、こーいうとこ。元気にすくすく育ってますのでご心配なく」
早いものであれから5年が経つらしい。
私が11歳のとき、両親は事故で帰らぬ人となった。
当時の兄は19歳、それまでは「ちゃらんぽらんしている歳の離れたお兄ちゃん」という認識しかなかった。
それが今はこうして毎日食事を作ってくれて、お弁当も欠かさず作ってくれる。
私となるべく離れる時間がないようにと、在宅の仕事にまで就いてくれた。