このキョーダイ、じつはワケありでして。
この男からすれば犬に与えるご褒美であり、いつものお礼。
それを理解してしまえば怒る気力のほうが勿体ない気持ちになるのだ。
というのがひとつ。
そしてもうひとつ、たしかに私の機嫌がいい理由があった。
「兄ちゃんに彼女ができました」
「え、…まじ?」
「はい。すごくきれいで優しいひとで、たまにご飯とかも作りにきてくれます」
約束どおりあれから顔合わせをして、もちろん私も身内ということで同行。
仲介者はテツ。
簡単に言えばすごく現代チックなお見合いのようなものだった。
お互いに結婚を考えている。
結婚前提の良い付き合いを求めている。
『麻衣子(まいこ)です。はじめまして』
『は、はじめまして…!』
『…名前、聞いてもいいかな?』
『あっ、慶音です!』
『慶音くん。いい名前だね』
と、初っぱな交わした挨拶はのちに兄の名前だと思われたという大失態を冒したっけ。
雰囲気をよくするため私らしくないほど頑張っては空回りの連続で、私の自己紹介になってどうするんだと自分自身にツッコんだ。