このキョーダイ、じつはワケありでして。
「ちょっと退いて…!!あたしらは志摩くんに話があるのよっ!!」
「潔くこんなクズから去ったほうが身のためですよ。…私も、痛い思いさせれずに済むんで」
「っ、もうこわーい…!!」
今日も傷つけることなくクズの被害者たちを撤退させることができた。
ふう…と息を吐く私を見つめてどこか不思議そうな顔をしているのは、張本人だ。
「なんかいいことでもあったの?言葉だけで片付けてるし、最近すごいかわいい顔してるよ慶音」
「…気のせいです」
「いーや。だってほら───」
ちゅっ───…。
柔らかな感触、弾ける音。
私が意識をする寸前に頬っぺたから離れて、顔を覗きこんでくる。
「こうしても俺が無事ってことが何よりの証明じゃん?」
「…………」
あの日以来、唇には2度と重ねられることはなかったが、おでこに頬っぺに、ときには部活で負った傷跡に。
それがどうにも緒方 志摩なりの謝罪らしく。
………まあ言ってしまえば、慣れというものほど怖いものはないってこと。