このキョーダイ、じつはワケありでして。
「妹に自分の人生つぶされて…、邪魔ばっかりされて…っ、兄ちゃんの幸せいっつも後回しじゃんか…。
私が居なかったら好き勝手できたし、とっくに結婚だってしてたはずだしっ、ほんと、こんなひどい妹を持って───…」
─────可哀想だ。
それを言う前に「けーと」と、優しすぎる声でストップをかけてきた。
しゃがんで見上げてくる眼差しは、やっぱり最期に見た母にそっくりだ。
「もし本当にそうだったら、俺は最初からおまえを施設に預けてる。でも…引き留めたのが兄ちゃんだよ」
変わってないんだよ。
私だって結局はあの頃からなにも変わってない。
むしろ今度は逆。
麻衣子さんのほうへ行ってしまいそうな兄を、土下座でもなんでもしてまで引き留めたいと思っているのが私だ。
連れていかないでください。
兄ちゃんをまだ連れていかないでください───と。