さよなら、私の片思い
『もし、よかったら今日の夜電話しませんか』
送っちゃった。ドキドキしながら返信を待っていると五分後くらいに携帯が振動してドキッとして見てみた。
『別にいいよ。何時からがいい?』
やった、陽太君がオーケーしてくれた。思わず飛び跳ねたくなる気持ちを抑えて返信した。
『十時くらいがいいな。宿題とか家事とかやることやらないとだし』
すると今度はすぐに返信が帰ってきた。
『了解。その時間は空けとくわ』
私のために時間を開けといてくれた。その嬉しさで思わず笑みがこぼれてしまった。
そして、十時になった。ドキドキして携帯を見たら通話がかかってきた。慌てて応答のボタンを押す。
「もしもーし」
「あ、もしもし」
通話越しで聞く彼の声。学校でいつも聞いている声とは違う声に思わずにやけが止まらなかった。
「おい、聞いてるのかよ」
「あ,うん聞こえているよ」
「じゃあ、何か言えよ。聞こえてないと思うだろ」
「あーごめんね。ちょっと通話するのとか初めてだから、どうするのか分からなくて」
「なんだよそれ、おばあちゃんかよ」
けらけらと笑い声をあげながら彼はそんなことを言う。それに対して私は「もういじわる」と言い返した。
陽太君は、思ったことをすぐになんでもいう性格だ。そのせいで私は最初はとても苦手意識が高かったけど、その思ったことを言う裏表のない性格と、その性格の裏側の不器用な優しさに私は好きになってしまった。今ではなんでも思ったことを口にする彼が付き合いやすく、心地いい。それに容姿も身長が高く、綺麗な栗色の髪形に真っ白な肌で綺麗な目をしていて、興味がないことに無頓着だが、好きなバスケになるとイケイケになってかっこいい所も人気がある。だから早く言わないと誰かに取られちゃうかもしれない。
「なんだよ。せっかく通話したいっていうから何か話すことがあると思ったのに、何も話さないのかよ」
「あーえーとえーと」
どうしよう。このままじゃつまらないって思われちゃうかもしれない。何か、話題を降り絞らなくちゃ。そう思って必死に頭をフル回転させて、脳内検索をかけた。
「く、雲!」
「雲?」
確か彼は、バスケの他にも、景色とか空が好きだったはずだ。だから雲の話題を出したら喜ぶと思ったのだ。
「うん、今日の昼の雲が綿あめみたいだなって思って」
「――ぷっ」
しばらくの沈黙の後彼は吹き出してしまった。
「ち、ちょっと。なんで笑うのよ」
「だってさ、ロマンチックな話が出てくるのかと思ったら。出てきた話題がわたあめって。あーおかしい」
「もう! 酷くない」
いじけるように私は言うけど彼はごめんごめんと謝罪しながらまだ笑っていた。
「そんな拗ねんなって。ほら、俺と毎日通話しよ」
「えっ!?」
その言葉はいじけていた私の気持ちを吹き飛ばすには十分すぎる効果があった。
「お互いの予定がない日は毎日十時から通話するってことでいい?」
「あ、うんいいけど」
私は上ずる声を必死に抑えて答えた。毎日陽太君と通話できる?それはなんて幸せなんだろう。
「よし、決まりな。予定がある日はあらかじめ言ってくれればいいから」
「うん! 分かった」
「じゃあな」
そう言って通話が切れた。毎日彼とこれから通話ができる?そう思ったら今日は気持ちが高ぶって眠れなかった。