青い導火線 クセモノたちの狂詩曲
「……という感じに、明日のHR内での結成式をもって、正式に文化祭実行委員会が発足されます。以後この部屋が拠点となるので、自分の担当に関する装備品などの管理は徹底すること。役割分担や細かいワークスケジュールはプリントで確認してください。明日から放課後にはこの緑色の腕章を付けて動くように。それから、三年生には一年の各クラスへアドバイザーとして入ってもらいたいので、この後振り分けの相談をお願いします。……最後に、年間最大の行事である文化祭を盛り上げるために、全員の健闘に期待します。何か思いついたなら、どんどん実行行動しちゃってください。文句や苦情を言う人間がいたら、中川のところへ来い、と伝えてください。以上、質問は?」

 誰もがわくわくと顔を輝かせて無言のままだ。

「それじゃあ、解散。よろしくお願いします」

 わっと口々に言葉を交わしながら委員たちがばらけていった。

「盛り上がってきたね」

 高揚感でいっぱいになっている拓己の隣で、片瀬もこくこく頷いている。雰囲気にあてられそうになりながら、正人はひそかに舌を巻いていた。

 中川美登利、侮りがたし。




 校舎を出る頃には雨が降り始めていた。傘を持っていた拓己が入れてくれようとしたけれど、

「コンビニ寄ってくからいいよ。食いもん買ってきたいし」

「ぼく先に帰ってるよ」

「ああ」

 近くのコンビニでカップラーメンとビニール傘を買って、寮への道を急ぐ。河原沿いの道を歩いていると気になる光景に行きあたった。

 河原の芝生の一角にある東屋のベンチに、青陵の制服を着た女の子が座っていた。正人の脳裏にちらりとひらめくものがある。

(もしかして……)

 朝もここにいなかったか? あの子。

(まさかね)

 考え事をしながら歩いていたから足元がおろそかになっていた。左足のかかとに何かが当たって転びそうになる。

「え……」

 正人の前を歩いていた老婦人が抱えていた袋から、缶詰が次々に転がり出していた。

「大丈夫ですか?」

「ええ、ええ。ごめんなさいねえ」

 彼女が屈むと、また缶詰が転がり落ちる。

「それ、おれが持ちます」

 レジバッグを持ち、転がっている缶詰を手早く拾う。

「お家はどこですか? 持っていきます」

「ありがとう。優しいのねえ」

 婦人は目元に皺を寄せ上品に微笑んだ。

「家はね、そこの石段を上がったところなの」
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