青い導火線 クセモノたちの狂詩曲

Episode 02 レイニー・ブルー

「去年もそうだったけど、体育祭の後って、どっと疲れるねえ」

 教室前の廊下。窓際で登校してくる生徒たちの様子に視線を落としながら、船岡和美がうーんと伸びをする。

「天気のせいもあるよなあ」

 連休明けの先週末まで快晴続きだった空模様が一転、今日は今にも雨粒が落ちてきそうな曇り空だ。海が近いこの場所は、こんな天気の日には潮と雨の匂いでいっぱいになる。

「今から梅雨入りが憂鬱になっちゃう」

「私は好きですよ。雨の匂い」

 和美の横に並んで外を見下ろした坂野今日子は、途端に顔を曇らせた。

「どしたー?」

 今日子の視線を追った和美もまた顔をしかめる。

「佐伯氏、また新しい女の子連れてるねえ」

「一年生ですよね?」

「調理部に入った子だよ。今年の一年の中じゃ一番可愛いかもって目え付けてたのに! がっかりだー。なんで佐伯氏なんかに引っかかるのさ」

「顔はピカイチですから。可愛い子ほど寄っていってしまうのでは」

「一年生女子に本性が知れ渡るまでの辛抱か……」

 そうこうするうちに風紀委員による閉門前のカウントダウンが始まった。慌てて駆け出す生徒たちの更に後方から、ものすごい勢いで迫ってくる影がひとつ。

「池崎少年、今日も滑り込みセーフだ」

 身を乗り出して様子を見ていた船岡和美は感心してつぶやいた。

「いやあ、速い速い。リレーでも大活躍だったもんね」

「あと五分早く起きるって選択肢はないんでしょうか」

「ないんだろうねえ」

 あはははは、と和美は大笑いした。




「こら、池崎! 帰るなよ」

 廊下で待ち構えていた森村拓己に腕を掴まれたと思ったら、反対側の腕まで片瀬修一に掴まれた。正人はふたりに両脇を抱えられ、そのままずるずる連れていかれる。

「今日は委員会だって言っただろ」

「帰りたい……」

 中央委員会室には三十人ほどの生徒たちが集まっていた。

「こんなに人がいたんだな」

「普段わざわざ集まったりしないからね」

「来た人からプリントと腕章を取って座ってください」

 坂野今日子が呼びかけている。ほどなく中央委員会委員長の中川美登利がやって来る。一番後ろの端に座っている正人を見つけてにこりとした。

「そろったみたいね。それでは始めます」

 文化祭のための会合だということは正人にもわかっていた。高校で初めての文化祭、楽しみでないわけではない。
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