バレンタイン

 あのイヴの夜から、お正月が過ぎ、今日はとうとうバレンタインデイ。

 彼氏いない歴6年のこの私に、そんな簡単に彼が出来る筈もなく、案の定ステキな出逢いすらなく、まんじりともせずにただ時間だけがだらだらと過ぎていった。


 こんな馬鹿げた予約なんてキャンセルしてしまおうと何度となく思ったけれど、倫子は大学構内で私を見掛けるたびに意味深な視線を送って寄越し、同じ講義を取った日などはわざわざ隣の席に座って『彼氏が出来たとは思っちゃいないけれど、キャンセルはダメよ』と念を押す。

 
 いい加減、うざいわよアンタ。


 倫子曰く。

「“彼”を作んなくてもいいのよ。でも、いつ素敵な出逢いが転がってるかわかんないじゃない? そーいうのを逃さない為に予約はキャンセルしちゃダメよ。どうしてって? ばっかねえ。バレンタインは女の子から告白して良い唯一の日なのよ。もし素敵なひとに出逢っちゃって、恋に堕ちたりなんかしちゃっても、ハルヒちゃんは絶対告白なんかできないでしょう。奥手のハルヒちゃんが彼氏ゲットするには、こういうイベントでも利用して突っ走らないと! じゃないとあなた、一生処女よ!!」


 .....なんて云うのよ。

しかも、それに舞までもが同調しちゃって。

「そーよね。倫子ってばいいところ突いてるわあ。よっし、ここは私も協力するわ! ハルヒが予約をキャンセルしないよう見張ることにする。わかったね、ハルヒ。キャンセルなんかしたら友達の縁もばっさりよ。返品してやるんだからねっ」


 うわあん しないでちょうだい、返品。




 そんなこんなで、バレンタインの夜。 


 やっぱり彼氏もできないまま。

 当然、素敵な出逢いもなく。

 勿論、好きな人もいないのに。



 私はひとりホテルにチェックイン。


 素晴らしくも華美に豪華なスーペリアルスウィートで、途方に暮れているわけなのです。





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