【短編】最強総長は隠れ狼姫を惑わしたい。
「あと、さ」
「なんだ?」
「その……この辺で買い物出来るとこってどの辺りなのかな?」

 地元から遠く離れた場所だから土地勘はサッパリだ。
 ちょっとしたものを買えるところや、自炊が必要だって言うならスーパーとかの場所も知りたい。

「あーそうか、お前の地元って遠いんだったか……」

 すぐに納得してくれた迅は、少し考えるそぶりを見せてからあたしに視線を戻した。

「じゃあ土曜の予定空けとけ。街も軽く案内してやる」
「え? いいの?」

 街の案内までしてくれるとは思わなかったからちょっと本気で驚いた。

 そんなあたしにフッと優し気な笑みを浮かべた迅は、節ばった手を上げてあたしの額を軽く小突いてくる。

「いいに決まってんだろ? カノジョだしな?」
「っ……仮の、でしょ?」

 まるで本当の恋人や親しい人にしかしないような仕草に、心臓が一瞬跳ねてしまう。
 確認でもしないと、変な勘違いをしそうだと思った。

「そうだな」

 笑顔のまま口にされた肯定の言葉が、寒い風になって心を通り過ぎた気がした……。
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