【短編】最強総長は隠れ狼姫を惑わしたい。
***

「まさかリィナが迅さんの女になるなんて……」

 朝から項垂れている圭は驚きを隠しもせずそう言った。

 ちなみに項垂れているのはあたしが迅の女になったからじゃなくて、昨日あたしを置いて美人の彼女に会いに行ったことをこってり絞られたからだそうだ。

 大丈夫だと送り出したあたしとしては申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
 でも圭はすぐにパッと元気を取り戻す。

「でもまあそれならそれで助かるかな。登下校が迅さんと一緒なら、俺は学校にいる間だけリィナの側にいればいいだけだし!」

 今日も彼女と会う約束をしているという圭は、「慰めてもらおう」なんて言って天使の笑みを浮かべている。

「本当に好きなんだねぇ、彼女さんのこと。良いなぁ……」
「良いなぁって、リィナも迅さんっていう極上な彼氏がいんじゃん」

 圭の彼女を想う気持ちにホッコリして思わずつぶやいた言葉にツッコミが入る。

「そ、そうだね」
「しかも早速土曜はデートなんだろ? 一緒に出掛けるって聞いたぜ?」
「で、デート⁉」

 街の案内としか思っていなかったことをデートだと言われて驚く。

「デートだろ? 早速デートっすか?って聞いたら迅さん『そうだな』って言ってたぜ?」
「っ⁉」

 迅はデートのつもりだったってこと?
 仮の恋人なはずなのに……何を考えてるの?

 迅のことが分からなくて、早まるあたしの鼓動もどうしてなのか分からなくて……。

 あたしはただ顔を赤くすることしか出来なかった。
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