【短編】最強総長は隠れ狼姫を惑わしたい。
 本当の彼氏になった迅。

 サラサラな黒髪は触るだけでも気持ちいい。

 黒に近い焦げ茶の目は優しかったり肉食獣の様だったりと振り幅が大きいけれど、どの眼差しもあたしを想い求めてくれるものだ。

 印象的な低い声で囁かれると、それだけで腰が砕けてしまいそうになる。

 抱きしめられると、彼の腕はすっぽりとあたしを包む。

 そして、形の良い薄い唇が触れると……幸せな気持ちになる。


 カッコよくてイケメンで料理も出来て。

 極上な彼氏に甘やかされて、あたしはどんどん自分が女の子らしくなっていくのを感じていた。


 このまま迅に守られて、普通の女の子として彼の側にいたい。

 本当のことを言えないのは申し訳なく思うけれど、もしケンカが強いことが知られたら嫌われたり幻滅されたりするかもしれない。

 そっちの方が怖かった。


 だから、このまま何事もなく日常が過ぎて行けばいい。

 そう願ったときだった。


「お、今日は来栖一緒じゃねぇんだな? ツイてるぜ」

 圭とは違う声がして、数人の男があたしたちに近付いて来る。

 何となく見覚えのある人たち。
 忘れかけていたけれど、多分入学式の日にあたしに絡んできた上級生の人達だ。

 その中の見覚えのない金髪の人物があたしをハイエナのような鋭い目で睨みつける。
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