乳房星(たらちねぼし)〜再出発版

【まちぶせ】

話しは、【あの日に帰りたい・その2】の終わりの部分から始まる。

時は、5月17日の午前7時過ぎであった。

ところ変わって、企救丘《きくがおか》(北九州市小倉南区)にある大型倉庫にて…

(ガタン…ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)

倉庫内に電動シャッターが上がる音が響いた。

(カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ…)

つづいて、大型カーゴの車輪の音が響いた。

電動シャッターとカーゴの車輪の大きな音で私は叩き起こされた。

この時、白濁色の作業服を着た背高のっぽの目つきの悪い男が私の前に立っていた。

その後ろで、30人くらいの作業服姿の男たちが10台の大型カーゴを倉庫に入れていた。

それから10分後であった。

男たちは、倉庫から出ていった。

そしてまた、倉庫の電動シャッターが大きな音を立てて降りた。

この時、私はものすごく激しい怒りに震えていた。

あいつらは…

なんで淡泊眼《たんぱくがん》で私をイカクしたのか?

それから数分後であった。

倉庫に目つきの悪い女主人がやって来た。

女主人は、私に対して『モーニング食べに行こや。』と言うた。

私は『支度します…』と答えた。

この時、私はいつでも飛び出すことができるようにするためにショルダーバッグを持って出た。

(チリンチリン…)

私が女主人と一緒にカフェテリアへ向かっていた時であった。

キンリンにある高専・高校・中学校へ向かっているたくさんの学生たちが徒歩や自転車で往来していた。

学生たちは、元気な声で朝のあいさつをかわしていた。

女主人は、にこやかな表情で制服姿の学生たちを見ていた。

この女主人もまた、田川の居酒屋の常連客《おっちゃん》と同じ『他に楽しみがないしょぼい人間《ヤツ》だ…』と感じた。

制服を着て、元気な顔で高校へ通っている学生たちの姿を見ることが唯一の楽しみ…

…だなんて、理解できんワ…

ところ変わって、モノレールの企救丘《きくがおか》駅から北東へ500メートル先にあるカフェテリアにて…

モーニングが来るまでの間、私は女主人と話をしていた。

女主人は、大きくため息をついてからあつかましい表情で私に言うた。

「イワマツはん!!」
「はい、なんでしょうか?」
「ここへ来る途中の道で、いろんな学校の制服を着て元気な顔で学校に向かっている学生たちを見たよね。」
「はい。」
「コーセンはきょう、科ごとのケンキューごとの発表会があるみたいね…近くのコーリツは、きょう卒業生が来校してみんなでキューギタイカイするみたいよ…学生たちは、希望に満ちあふれた表情でイキイキしていたわよ…『ガッコーが楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい…』…といよる表情だったわよ…あんたはそれ聞いて、なんとも思わないの!?」

なんとも思わないのって…

それ、どう言うこっちゃねん…

私は、ますますわけがわからなくなった。

企救丘《ここ》へ来る前に(大阪の)釜ヶ崎《かま》で暮らしている住人《おっちゃん》が女主人が同じことを私にいよったんを思い出した。

釜ヶ崎《かま》の住人《おっちゃん》は、中学校を卒業したあと集団就職の一行と一緒にいなかを出た。

その後、吹田市《すいた》にある零細工場に就職した。

定時制《ていじ》へ通いながら働けるのに、高校《コーコー》に行かなかった…

住人《おっちゃん》は『ワシは勉強ぎらいだから定時制《コーコー》いかん言うて断ったんや。』といばった声で私に言うた。

ソレ聞いて、ホンマにシラけたワ…

戸畑のごはん屋のおばちゃんも『高校へ行けないコはかわいそうだと思わないの?』とあつかましく言うた…

筑豊田川《ちくほうたがわ》の居酒屋のおばちゃんも、高校へ行けないコたちがどーのこーのと言うた…

豊後日田《ぶんごひた》の旅館の主人は『親もとからコーコーへ通えないコは不幸になる…』とクソたわけたこといよったワ…

それは、京阪神内《アーバンネットワークエリア》のバイト先にいた時も同じだった。

コーコーコーコーコーコーコーコーコーコーコーコーコーコーコーコーコーコー…

高校の漢字ふたもじを読むだけでもうんざりだ!!

女主人は、私に対してよりあつかましい声で言うた。

「イワマツはん!!」
「はい?」
「あんたはうちの声が聞こえないのかしら!?」

なんや…

今、なんてほざいた!?

私は、にらんだ目つきで女主人をイカクしながらつぶやいた。

女主人は、私に対してよりあつかましい声で言うた。

「希望に満ちあふれた表情で高校に通っている学生たちを見て、自分もコーコーへ行きたいと思わないの!?」

理解に苦しむワ…

希望に満ちあふれた表情って、なんやねん…

私は、より激しい怒りをこめてつぶやいた。

この時であった。

近くの病院の清掃のおばちゃんが店にやって来た。

女主人は、おばちゃんにやさしく声をかけた。

「七折《ななおれ》の奥様。」
「ああ、金城のねえさん。」
「今日もパートね。」
「うん。」
「(次男)くんは、今どこにいるの?」
「(次男)は、東北(の駐屯地)にいるけど…近いうちに…NATO(ナトー・北大西洋条約機構)軍の基地があるトルコへ行くことになったのよ…」
「トルコ…」
「自ら志願したのよ…(次男)は、世界平和と人びとの未来を守るためにテロと闘《たたか》うと決意したのよ。」
「(次男)くんは、いつ帰って来るの?」
「来週の日曜日に帰って来るわよ…その2日後には、出征《しゅっせい》するのよ。」
「まあ、たくましいわね…来週の火曜日はみんなで『バンザイサンショウ』で送ってあげようね。」

女主人は、満面の笑みでおばちゃんに言うた。

おばちゃんが空いている席に座ったあと、私は女主人におばちゃんのことを聞いた。

「あの〜」
「(ものすごく怒った声で)なんやねん!?」
「掃除のおばちゃんの息子さんは、ジエータイで働いているのですか?」
「(ものすごく怒った声で)そうよ!!」
「NATO(ナトー)の基地へ行くのは…」
「(ものすごく怒った声で)(次男)くんが自らが志願したのよ!!」
「日本は…憲法9条があるのに…」
「日本《このくに》は憲法9条があるから戦争できないけど、七折《ななおれ》の次男くんは自ら志願してNATOに加わるといよんよ!!」

ホンマかいな…

私は、しらけた目つきでつぶやいた。

女主人は、よりし烈な怒りを込めながら私に言うた。

「それじゃあ問題を出すわよ…七折《ななおれ》の次男くんは、なんでジエータイへ行ったのでしょうか!?」

あんたは、俳優の児玉清(故人)かよ…

私は、めんどくさい表情でつぶやいた。

女主人は、よりし烈な怒りを込めながら私に言うた。

「早く答えてよ!!」

私は、ひねた声で女主人に言うた。

「早く答えてよって…意味がわからん…」

女主人は、よりし烈な怒りを込めながら私に言うた。

「七折《ななおれ》の次男くんは…私立高校《コーコー》を退学したあとジエータイに入隊したのよ…」
「コーコーをやめてジエータイに入った?」
「そうよ…それでは、七折《ななおれ》の次男くんは、なんでコーコーをやめたのでしょうか!?」

だから、なんやねん…

ますますわけがわからなくなった。

女主人は、よりし烈な怒りを込めながら私に言うた。

「答えは…ガッコーで暴れたからやめたのです!!」

はあ?

ガッコーで暴れたから?

ますます意味がわからんなったワ…

女主人がいよる言葉は、抽象的《ものすごくあいまい》だから理解できんワ…

日本《このくに》はどないなってんねん…

『学校で暴れた』と言うのは、こう言うことなのか?

仲村トオルさんが主演の映画『ビー・バップ・ハイスクール』スクールシリーズや織田裕二さんが主演の映画『湘南暴走族』や賀来千香子さんのオイゴ・賀来賢人さんが主演のドラマ・映画『今日から俺は』やエグザイル一族が総出演の映画『ハイアンドロー』…でツッパリ同士がケンカしたことをいよんか?

他に『学校で暴れた』理由はなんやねん…

こなな抽象的《あいまいなことば》は、納得できまへん!!

女主人は、よりし烈な怒りを込めながら私に言うた。

「七折《ななおれ》の次男くんは、今ごろもビービービービービービービービービービービービービービービービービービービービービービービービー泣きよるよ!!」
「はあ?どう言うこっちゃねん?」
「だから!!七折《ななおれ》の次男くんは『(私立高校)にはやさしい人だがたくさんいたからよかった…』と泣きよんよ!!」

ソレ、どう言うこっちゃねん…

ますますわけがわからなくなったワ…

私は、ムッとした表情で女主人に言うた。

「あの…お言葉を返すようでもうしわけございませんが…(私立高校)にはやさしい人たちがたくさんいたからよかったと言うのはどう言うことでおますか?」

女主人は、ものすごく怒った声で『うちに意見を言う気!?』と私に言うた。

私は、ものすごく怒った声で女主人に言うた。

「おんまくムジュンしてますよ…コーコーにはやさしい人たちがたくさんいるけど、社会に出たらやさしい人たちはひとりもいないと言うことでしょうか?」
「そのとおりよ!!…あのね!!コーコーチュータイの男子の進路はジエータイに行くかのたれじにするかのふたつしかないのよ!!」
「ふたつしかない?」
「ほんとうにほんとうにほんとうにほんとうにほんとうにほんとうにほんとうにほんとうにふたつしかないのよ!!」

女主人は、さらにあつかましい口調で私に言うた。

「それじゃあ、あんたに聞くわよ!!『コーコーへ行く』『ジエータイへ行く』『のたれじにする』の3つの中からひとつを選びなさいと言われたら、どれを選びますか!?」
「どれを選びますかと言われても困るねん…」
「あのね!!チューソツの男子の進路選択はこの3つしかないのよ!!」
「(ものすごくあつかましい声で)ですから、3つとも選べませんよ…」
「だめです!!3つの中からひとつしか選べません!!」
「3つとも選べません!!」
「いいえ!!3つの中から選びなさい!!日本《このくに》のチューソツ男子は『コーコーへ行く』『ジエータイへ行く』『のたれじにをする』しか選べません!!」

私は、冷めた声で女主人に言うた。

「気持ちが変わった…一身上の都合で…やめさせてもらいます…」

女主人は、怒った声で私に言うた。

「職場放棄は許さないわよ!!」

私は、にぎりこぶしをふりあげてイカクしながら言うた。

「オドレの頭がクルクルパーだから従業員に去られたという事に気がつけよ!!」
「キーッ!!口答えすることだけはいっちょ前ね!!」
「なんとでも言えよボケ女!!」
「もう許さないわよ!!」
「おれもあんたをこらえへん!!オレ、家出するから…ここのゴハンダイはらうから…オレ、来たところをまちごーたワ!!」

私は、ショルダーバッグを持って席を離れたあとレジにいる人に1万円札を渡した。

「お客さま、おつり…」
「とっとけ!!」

ブチ切れた私は、店を出たあと再び旅に出た。
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