乳房星(たらちねぼし)〜再出発版

【人形の家】

時は、夜11時過ぎであった。

私がいる部屋は、枕もとの灯りだけが灯っていた。

ふとんに入っている私は、ときおり腕時計を見ていた。

この時間、溝端屋のダンナたちは鵜飼《うか》いを楽しんだあと館内にある大広間で二次会を楽しんでいた。

三味線《しゃみ》の演奏とジジイどものふざけた声がこの部屋にも聞こえていた。

大広間では、スケベジジイどもたちとコンパニオンさんによる脱ぎの野球拳が繰り広げれていた。

『おお〜』
『生き返った〜』

なにが『生き返った〜』だが…

11時半頃であった。

溝端屋のダンナが泊まる部屋に男が入った。

「ここでおますか?」
「へえ…ダンナはんたちをお呼びしてまいります。」

部屋に入った男は、番頭《ばんと》はんや…

私は、枕もとの灯りを消したあと身をひそめた状態で押入れに行った。

押入れのふすまをゆっくりと開けた私は、ゆっくりと押入れに入った。

押入れのカベの向こう側は、溝端屋のダンナが宿泊する部屋である。

私は、息をひそめながらカベに耳をあてた。

溝端屋のダンナたちが部屋に入ったのは、それからすぐであった。

カベの向こう側から、溝端屋のダンナの声が聞こえた。

「おう竹宮、待たせてすまなんだのぅ〜」
「へえ〜」

溝端屋のダンナが宿泊している部屋にて…

部屋の中には、溝端屋のダンナと田嶋《くみちょう》と小林と山岡と番頭《ばんと》はんの5人がいた。

「ほんなら、密談《かいぎ》を始めまひょか?」
「へえ。」

この時であった。

(ブーン、ブーン、ブーン、ブーン…)

薄暗い灯りの周りで、ブイブイ(かなぶん)が飛んでいた。

溝端屋のダンナは、うんざりとした表情で言うた。

「なんやねんもう…またーブイブイがとびよる〜」

(パシッ…ポトッ…グシャ…)

番頭《ばんと》はんは、ブイブイを叩き落としたあと足で踏みつけた。

「竹宮、ブイブイはおらんなったか?」
「へえ。」
「ああ、さよか…せやけどきょうはおんまくむしあついから、ブイブイがあちこちで飛びよるワ…まあええわ…ほな、始めるぞ。」

このあと、密談《かいぎ》が始まった。

小林が怒った声で溝端屋のダンナに言うた。

「溝端屋!!」
「なんぞぉ〜」
「6月24日に風早連合《かざはやれんごう》の組長(田嶋の弟)が殺された事件で、愛媛県警《けんけい》が尾儀原健太《クソガキ》の特別手配を取り消したニュースをごぞんじでしょうか?」

溝端屋のダンナは『ああ。』と答えたあと番頭《ばんと》はんに説明を求めた。

番頭《ばんと》はんは、事の次第を小林に説明した。

「たしか…連合の構成員のひとりが警察署に出頭して自首したそうです…自首した構成員が逮捕されたので、健太《クソガキ》の逮捕状は取り消しになりました。」

小林は、怒った声で溝端屋のダンナに言うた。

「溝端屋!!溝端屋はどないおもいまっか!?…溝端屋の用心棒《ケツモチ》を務めていた組織《くみ》の組長を殺した男がムザイホウメンでシャクホウされた…言いかえたら、わてらは尾儀原《クソガキ》と尾儀原《クソガキ》を匿《かこ》ったヨリイのババァからグロウされた…という事ですよ!!…それ聞いて悔しいとは思わんのか!?」

小林が言うた言葉に対して、溝端屋のダンナはだまりこんでいた。

小林は、田嶋《くみちょう》に言うた。

「田嶋《くみちょう》!!あんさんもだーっとらんとなんぞ言うてーな!!…たのむさかいに…ヨリイのババァが運営している母子保護施設《しせつ》をダンプでぺちゃんこにつぶすしかないねん…なあ、頼むねんこの通り…」

溝端屋のダンナは、怒った声で言うた。

「ヨリイのババァの母子保護施設《しせつ》に手出しをするな!!…ワシらの標的《ターゲット》は健太《クソガキ》と健太《クソガキ》を匿《かこ》っている周囲のもんだけや…施設で暮らしている他のお子さまたちとお母さま方たちを巻き添えにするな!!…ところで竹宮、なんぞ聞いた話はあるか?」

溝端屋のダンナの問いに対して、番頭《ばんと》はんは気色悪い声で言うた。

「へえ…その一件については、週刊誌のヤクザ担当の記者から聞きやした。」

なんやて…

週刊誌のヤクザ担当の記者から、健太が特別手配取り消しになったイキサツを聞いた?

ウソやろ…

番頭《ばんと》はんは、知人のヤクザ担当の記者から聞いた内容を溝端屋のダンナにしゃべった。

「ダンナ…健太《クソガキ》の特別手配取り消しにかかわった人間は…押岡《おしおか》と言う弁護士が愛媛県警《けんけい》の官僚警察官《かんりょう》どもにジカダンパンしたそうです。」

小林は、怒った声で『押岡《おしおか》!!』と言うたあと番頭《ばんと》はんに言うた。

「おい竹宮!!押岡《おしおか》のヤローと言うたら…恵須取《えすとる》会の顧問弁護士じゃないかぇ!!」
「へえ、そうでおますが…」

溝端屋のダンナは、怒りを込めて言うた。

「たしか…健太《クソガキ》の結婚の時に世話していた例の媒酌人夫婦《ジジババ》の知人が押岡《おしおか》だった…健太《クソガキ》の特別手配取り消しにかかわった人間《もん》は、他にいるのか!?」

溝端屋のダンナの問いに対して、番頭《ばんと》はんはこう答えた。

「健太《クソガキ》の結婚を世話した媒酌人夫婦《ジジババ》と押岡《おしおか》…ヨリイのババァ…健太《クソガキ》の親類縁者全員…そして、愛媛県警《けんけい》の本部の官僚警察官《かんりょう》ども8人…それに…健太《クソガキ》が短大《メータン》に在席していた時に所属していたサークル仲間全員…他にも、ゆりこをつまみ食いしていた私立高校《メートク》の男子生徒《つっぱり》ども11人前後…短大《メータン》のサークルにいた男子学生《クソバカなまけもの》ども…そして、小学校時分にゆりこが好きだった英才《クソナマイキ》もグルになっていた…まだ他にも、健太《クソガキ》を匿《かこ》った連中は、たーんといてまっせ〜」

それホンマかよ…

聞き耳立てて聴いている私は、思わずゼックした。

番頭《ばんと》はんからことの次第を聞いた溝端屋のダンナは、怒った声で言うた。

「話はよく分かった…尾儀原《クソガキ》がムザイホウメンでシャクホウされても、オトシマエをつけてもらうことには変わりはない!!…尾儀原《クソガキ》はあの日、多度津の桃陵公園《とうりょうこうえん》でワシをボコボコにどついた…その後、ワシをがけから突き落として殺そうとした…そして6月24日!!田嶋《くみちょう》の弟を拳銃《チャカ》で殺した!!…押岡《おしおか》は愛媛県警《けんけい》の官僚警察官《かんりょう》どもを利用して、わしらの動きを封じ込めた!!そのまた上に、官僚警察官《かんりょう》どもの中に、恵須取《えすとる》会の構成員《チンピラ》どもとカケマージャンなどで交友を温めていたヤカラがおったわ!!…そいつらもまた、尾儀原《クソガキ》の親御《おや》とグルになって、尾儀原《クソガキ》の特別手配取り消しをコンガンした!!」

田嶋《くみちょう》は、不気味な声で『ますますけしからん…』と言うた。

小林は、怒った声で溝端屋のダンナに言うた。

「溝端屋!!どないしまっか!?」

溝端屋のダンナは、ものすごい血相で言うた。

「これで全てが分かった…こないなったら、まずは押岡《おしおか》の家の家族から抹殺《ころ》して行こう…続いて、恵須取《えすとる》会に出入りしていた官僚警察官《かんりょう》どもの家族たちをひとりずつ抹殺《ころ》して行く…そして最後に尾儀原《クソガキ》を抹殺《ころ》す…ゆりこは、コンクリ詰めにする…尾儀原《クソガキ》がわしらにわびを入れるまで徹底してやるぞ!!」

話を聞いてた私は、怖くなったので身をひそめた状態でおしいれからゆっくりと出た。

部屋に出たあと、私はふとんの中にもぐりこんだ。

ふとんの中にもぐりこんだ私は、ひどく震えていた。

溝端屋のダンナの怒りが最高潮に達した…

あの様子だと…

過激な行動に出るかもしれない…

弟さんを殺された田嶋《くみちょう》は、よりし烈な怒りに震えている…

健太は、特別手配取り消しになっても田嶋《くみ》に対してたきつけたので、命《たま》取られる危険は回避できないと思う…

健太…

オドレはとんでもないことをしでかした…

手遅れにならないうちに…

溝端屋のダンナにわびを入れろよ…
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