一期一会。−2−
人が少ない廊下を歩く。

キシキシと床の軋む音に、いちいち心臓が跳ねる。

誰にも、悟られないようにしないと。

どうか…この嘘がバレませんように。

日下組と対立する組の屋敷とだけあって、長く迷路のような構造。

私は、顔を上げて、和がいる場所まで突き進む。

すれ違う人達は、私をチラリと一瞥するものの気に咎めなかった。

逸る気持ちを抑えて、冷静さを保つ。

ー…そして、和のいる部屋へ辿り着いた。

ここで、終わりじゃない。

…ここからが、始まりだ。

私は膝を床について、あえて畏まる態度を取る。

演技は、きちんとしておかないとね。

私は、あくまで一介の組員にすぎない設定。

『…若、少々お時間を頂いても宜しいでしょうか』

こんなドラマみたいなセリフ言うの、初めてだし。

人目がある今、失敗は許されない。

襖の向こうに呼びかける。

すると、中から人が出てきた。

「構わないが…って…」


 
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