花風㊤

その人は何時も不意に訊ねて来た。

四畳半の和室で色褪せた畳の上に背筋を伸ばし、手を合わせる見慣れたスーツ姿。
真っ直ぐ見つめて息を吐き、背後に向けて言った。

「就職か進学、どっちにしたの?」

それは世間話に見え、穏やかに優しく聞こえている。
高三から繰り返し、そこに何を含むかは想像は出来た。

「就職はしません…進学します。デザイナーになりたいので」

自分の目標は変えたく無い。

「そう…」

相手も無理強いして来ない。

これで最後の質問だったのか。
短い中で納得した感情も伺える。

「それなら、頑張るしかないね」

向いた顔が少し諦めに見えた。

こんな時、何を言えば良いか分からずに戸惑う。

"ごめんなさい"は尤もらしいが口にして困らせて来た。

"分かってます"や"頑張ります"も今の自分だと戯言になる。

色々と耽る間に頭を覆うような手が撫でた。

「就職難までバイトだね…タマゴちゃん」
< 1 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop