花風㊤

切りたての髪型を茶化して笑う顔、向けられた眼差しが優しくて温かい。

ダブルのジャケットが映える背丈、少し癖のある短い黒髪、目立つ眉と長い睫に二重瞼、その顔には髭が口元や顎に掛けて整えられていた。

「私は・・・続けたいです、けど…」

戸惑い気味に表情は崩れず、軽く頷いた後で応えてくる。

「それなら、大丈夫。俺に決められる権限は無いから」

リビングに向かい、ソファーのトレンチコートを手にし、後にする背中を足が追って居た。

「戸田さん、あの…」

声を掛けても振り向きもせず、次を待ちながら靴を履いている。

何も出来ずに喉を詰まらせ、目に付いた物を差し出して誤魔化す。

「これ…」

「あぁ・・・そうだった、予報が雨だった。有難う」

今にも呟きだしそうな素振りをし、受け取りながら軽く笑う。


この人は"大人"で自分は"子供"でしかない。


「またね」と去り行く背中に何かが分かった気がしていた。


それでも口実が見つけられないまま時間が過ぎて行く。
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