干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 美琴と別れた後、雅也は車に戻る気になれず、ぼんやりと歩道を歩いていた。

 ときおり吹く冷たい風が、雅也の心の中を虚しく通り過ぎていく。


 もし、最初に出会った日からやり直せるなら、どんなにいいだろうか。


 ――あの日、君を助けたのが俺だったらどうなってた? この未来は変わってたのかな?


 そんな事を考えている自分に気がつき、雅也は自分を(あざけ)るように息を吐いた。


 ――それでもきっと君は、俊介を選んだんだろうね。……こんな失恋をするのは初めてだ。


 雅也は歩きながらもう一度、最後に美琴が言った言葉を思い出す。


 『水上さんなら、変えられるって信じてます』


 あの時、美琴は満面の笑みで雅也に頷いていた。

 まるで背中をどんと押すように。


 ――そうか。あれは美琴ちゃんからの励ましだったんだ……。


 雅也は手を夜空高くまで伸ばし、ぐっと星を掴むように拳を握った。


「気が付かせてくれてありがとう。そうだ、俺は俺のやり方で変えてやる!」

 雅也はそうつぶやくと、スマートフォンを操作して耳に当てる。


「もしもし……?」

 スピーカーの向こうでは、戸惑ったような低い声が聞こえていた。
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