干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 そして顔を覆った指の隙間をそっと開くと、副社長と目が合った。

「どうしました?」

 美琴の様子に、副社長は笑いながら再び顔を覗き込む。

「だって……。目が覚めたら副社長の顔が見えて。恥ずかしかったけど、嬉しかったんです……」

 耳まで真っ赤にして話す美琴の姿を、副社長は何かをぐっとこらえる様にして見つめている。


「少し寒いですけど、外に行ってもいいですか?」

 しばらくしてから口を開いた副社長に、美琴はゆっくりと頷いた。


 エレベーターを降り屋上につづく重い扉を開けると、急にヒュッと冷たい風が頬にあたる。

 あまりの寒さに美琴がコートの襟をぎゅっと両手でつかんでいると、副社長が自分のマフラーをはずして美琴の首に巻いてくれた。

 ふわっと柔らかい香りが鼻先をかすめ、美琴は温もりの残るマフラーに顔をうずめる。

 すると、マフラーを巻いている副社長の手がぴたりと止まった。


「昨日、雅也から電話がありました」

 副社長はマフラーに手をかけたまま、静かな声を出した。

「え……」

 顔を上げた美琴の頬に、副社長の指先が触れる。

「友野さんに、こっぴどく振られたって」

「え?!」

 素っ頓狂な声を出し目を丸くする美琴を見て、副社長は楽しそうに笑っている。
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