干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 しばらくして、美琴がふわふわした頭でそっと目を開けると、目の前に副社長の顔があった。

「ごめん……待てなかった」

 副社長はそう言って、美琴のおでこにコツンと自分のおでこをぶつける。

 その瞬間、現実に引き戻された美琴は、体中から火が出るかと思う程熱くなり慌て出した。

「わ、わ、わ……私……」

「どうしました?」

「は、は、初めてで……。キ、キス……」

 顔を両手で必死に隠しながら、動揺して言葉にならない声を出す美琴を、副社長は抱きしめたまま愛おしそうに見つめている。


「大丈夫です」

 副社長の声が聞こえ、美琴はそっと顔を覆った手を離した。

「え?」

「今日で慣れる」

「そんなっ……」

 副社長はいたずらっぽく笑いながらそう言うと、再び美琴の口をキスで塞いだ。



「俊介と美琴ちゃん、来ないねー」

 東がビールを傾けながら、居酒屋の入り口に目を向けた。

「まぁ、うまく行ったんだろうよ」

「え?! え?! そ、それってつまり?!」

 にぎやかな店内からは、楽しそうな声が響いている。


 冬の訪れとともに、五人を取り巻く環境もまた少しずつ変わっていくようだった。
< 284 / 435 >

この作品をシェア

pagetop