干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 下げた頭の前で、バタンと扉の閉まる音が響き俊介が顔を上げると、部長のガッツポーズが目に飛び込んできた。

 俊介は口元を緩め無言で頷くと、部長と拳をガチっとぶつける。


「あいつらが、この話聞いたら飛び上がって喜びますよ。干物はきっと、泣くだろうな……」

 エレベーターに向かう廊下で、部長がしみじみと声を絞り出すように言った。

「はい……。全て彼女のおかげです」

 俊介はそう言うと、美琴の姿を思いながら顔に笑みを浮かべる。


 エレベーターホールに着いた時、ちょうどポンと音が鳴りエレベーターの扉が開いた。

 ゆっくりと開く扉の先には、表情が固まった専務の顔が見える。

 俊介は思わず表情を強張(こわば)らせ、その四角い仏頂面に目線をやった。


 専務は全身に怒りが満ち溢れた様子で、二人を睨みつけている。

「相馬……覚えとけよ」

 専務は通りすがりに、捨て台詞を部長に向かって吐き捨てた。

 部長はふっと鼻で笑いながら、そんな専務の背中をおもむろに振り返る。


「専務。だから言ったでしょ?」

 専務の足がぴたりと止まった。

「『頭は、いつでも変えられますから』って」

 その言葉に専務は振り返らず、静かに社長室へと消えて行った。
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