干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 そのまま二人は、そっと指を絡ませて歩く。


 ――この時間が、ずっと続けばいいのにな……。


 美琴はそんな事を考えながら、ふとあのカップの事を思い出した。

「そういえば……」

 美琴がカップの事を聞こうと口を開いた時、俊介のスマートフォンが鳴る。

 俊介は画面を見ると、渋い顔を美琴に向けながら電話に出た。


「はい。はい……」

 電話で話す俊介の横顔を見上げながら、本当はこのまま抱きついて引き留めてしまいたい気持ちになる。

 美琴は胸でぎゅっと両手を握りしめながら、じっと俊介を見つめていた。


「わかりました。すぐに伺います」

 俊介は電話を切ると美琴を振り向き、頬にそっと指を当てる。

「時間切れだ。もう行かなきゃ……」

「はい」

 そう小さく答える美琴の瞳は、かすかに潤んで見える。


 俊介は急にサッと辺りを見回し、ふいにチュッと美琴の頬にキスをした。

「だ、だから……ここ社内!」

 顔を真っ赤にして叫ぶ美琴に笑顔で手を振りながら、俊介は駆け足でエレベーターホールに向かって行く。

 それはまるで悪戯をして逃げる子供のようでもあり、副社長としての俊介からは想像もつかない姿。


 美琴は、俊介の後ろ姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
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