干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 副社長室には、珍しく俊介の姿があった。

 スーツの上着を脱ぎ、ワイシャツにベスト姿で渋い顔をしながら、デスクの上の書類を一つ一つ確認している。

 健太は俊介が印を押した書類をまとめながら、横からそっと顔を覗き込んだ。


「その後、どうなってんの? 鷺沼のお嬢さんとは」

 遠慮がちに健太は声をかける。

「どうもなってない。こっちからは一切連絡してないからな」

 顔も上げずに答える俊介に、健太は驚いて目を丸くした。

「え?! 二週間、返事をほったらかしってこと?!」

「返事も何も、俺は見合いだなんて聞いてない……」

「そんなのが通用する相手かよ! 社内じゃ、もうすぐ婚約だって話になってるぞ……」

「は?!」

 俊介はぴたりと手を止めると、健太の顔を見上げる。


「誰がそんな事言ってるんだ」

「もう社内中の噂になってるよ。知らないのは俊介、お前だけだ」

 俊介は思わず額に手を当てた。

 社長の側で動いていた自分には、社員達の噂話が耳に入ってくることはない。


 ――もっと気をつけておくべきだった……。


 俊介はそう思いながら、はたと顔を上げる。

「……じゃあ、美琴も知ってるってことか?!」
< 346 / 435 >

この作品をシェア

pagetop