干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 社長は用件だけ伝えると、ガチャンと電話を切った。

 健太は、耳元で響いた大きな音に咄嗟に受話器を離すと、顔を青ざめさせる。

「や、やべー。どうすんだよ……」

 健太は部屋を空けて俊介を追いかけに行くこともできず、一人オロオロと慌てふためいていた。



 社長は健太との電話が終わると、社長室の隣の部屋をノックした。

「由紀乃さん。今、俊介は少しばかり席を外しているようなのですが、どうしますか?」

 由紀乃は紅茶のカップを両手で丁寧に置くと、にこりと笑顔を見せる。

「せっかくですから、俊介さんのお部屋まで行ってみます」

「そうですか。ここの一つ下の階になります。誰かに案内させましょうか?」

「いいえ、一人で大丈夫です。皆さまのお手を(わずら)わせるわけにはいきませんわ。お義父様」

 由紀乃に『お義父様』と呼ばれ、社長は目尻を下げた。

「娘ができるというのはいいもんですな」

 由紀乃は社長に笑顔で会釈をすると、スカートの裾をなびかせて軽やかに部屋を後にする。


 由紀乃には絶対的な自信があった。

 会社と社員を大切にする俊介なら、自分とのこの話を断れるわけがない。
 

 ――俊介さんは、必ず私と結婚するわ。


 静かな廊下を歩きながら、由紀乃は口元をそっと引き上げた。
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