干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「いやー。随分と素敵なメインスペースになりましたな」

 主催者側の男性が顎を撫でながら歩み寄り、部長に声をかける。

「直前に『植物の手配が思わしくなくデザイン変更』と聞いた時は、肝を冷やしましたが、逆に良かったくらいですよ」

「その節は、大変ご迷惑をおかけしました」

 部長は男性に小さく頭を下げた。

「グリーンデザインさんも大変でしたなぁ。まぁ今回、お宅にメインスペースを依頼しようと決めた時点で懸念はあったんですよ」

 男性は一旦チラッと周りを確認すると、部長の耳元に顔を近づける。


「横やりが入ったんでしょう?」

「と、言いますと?」

 部長は鋭い目線を男性に向ける。

「この業界で鷺沼さんは脅威ですからな……」

 男性の言葉に部長は一瞬息を呑む。


「……やはり、そちらの耳にも入ってたんですね」

 部長はわざと承知しているかの様に首を縦に振った。

「まぁ、うちの長年付き合いのあるグリーン業者から噂でね。鷺沼さんが植物を提供するなと御触(おふ)れを出してるとかなんとか……。まぁ、あくまで噂ですけどね」

 男性は肩をすくめて言うと、急にはははと笑った。

「無駄話をし過ぎましたな。では、また」

 足早に去っていく男性の後ろ姿を、部長は横目で見送った。
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