干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「今日は打ち上げっすね!」

 瑠偉が滝山にじゃれつき、はしゃぎながら歩いている。

「内田くん。展示会の本番は明日からでしょ!」

 追いかける胡桃の鋭い声が聞こえてきた。


 美琴はその姿を見ながら、つい健太と滝山と部長の三人の後ろ姿に重ね合わせる。


 ――あの頃は、隣に副社長がいたんだ……。


「大丈夫か?」

 部長に声をかけられて、美琴ははっと我に返った。

「あの。部長。明日からの展示会なんですけど……。メンテナンス後の案内係は、私がやっても良いですか?」

 美琴は下を向いたまま声を出す。


 今回のメインスペースは、来場者が歩いて中を通れる仕様になっている。

 本来の予定では、開場前にメンテナンスをし、交代で1名が残って案内係をすることになっていた。


 ――会場で、副社長を待ちたい。


 来ないかもしれない、いや来るはずはない、そう心で思いながらもどうしても美琴は諦めきれなかった。


「わかった。気が済むまでずっといろ」

 部長はほほ笑むと静かにうなずく。

「ありがとうございます」

 美琴は、こぼれそうになる涙を必死に(こら)えながら、小さく言った。
< 405 / 435 >

この作品をシェア

pagetop