干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「ぶ、部長……。僕もう涙が止まりませんー」

 会場の真ん中で幸せそうに抱き合う二人を見て、滝山が鼻をすすりながら号泣している。

 胡桃は真っ赤な顔で「きゃ」と頬を覆い、健太は瑠偉とガッツポーズを合わせた。


「よし! 邪魔者はさっさと退散するぞ」

 部長が手を叩きながらみんなをはやしたて、それぞれは出口に向かって歩き出した。

「干物良かったな……」

 部長はもう一度会場の真ん中を振り返るとそう小さくつぶやき、健太と肩を組んで出て行った。


「それにしても鷺沼造園との話って、これからどうなるんすか?」

 歩道を歩きながら、瑠偉が健太を振り返る。

「まぁ、決戦はまだ残ってるんだよね……」

 健太は小さくため息をついた。

「正直な話、もう一つダメ押しが欲しいって所かな」

 両手を頭の後ろに回し空を仰ぐ健太の隣で、部長がにやりと笑っている。

「東くーん。ちょうどいいネタ持ってるぞ……」

 目を細める部長に、健太はぎょっとしながら首を傾げた。


「いいネタってなんっすか?」

 瑠偉が横から顔を出す。

「お前らには内緒。さぁ、飯だ飯!」

「ぶ、部長のおごりで……」

 滝山がやんわりと手を上げた。

「お! タッキー、じゃあ今日こそ寿司にするか!」

「は、はいっ!」

「バカ言うな! 俺はおごらんからな」


 歩道には、いつまでも楽しそうな声が響いていた。
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