干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「私、助けに行ってきます!」

 美琴はブーケを俊介に手渡すと、もう走り出していた。

 取り残されたみんなは、きょとんと顔を見合わせる。


「い、いや。でも落ちた訳じゃなくて……道で滑っただけで」

 滝山の声は一切美琴に届かない。

「お待ちください! 危険ですから、新婦さんはここに……」

 ウエディングスタッフも必死に声をかけるが、美琴の足は止まらなかった。


「えっと……。行かせて大丈夫なの?」

 雅也が頭をかきながら俊介の顔を振り返ると、俊介は楽しそうにほほ笑んでいる。

「美琴は、あぁなったら止まらないからな」

「そうそう。今まで何度あのうしろ姿を見た事か……」

 両手を広げた健太に、俊介は満面の笑みで頷く。

「あれが美琴の魅力だからな」

 幸せそうな顔をして言う俊介を、みんなの穏やかな笑い声が包んでいた。



 美琴は遊歩道を走りながら、きらきらと降り注ぐ日差しに目を細める。

 たくし上げた裾を持つ手をぎゅっと握りながら、今確かな想いが美琴の中で溢れていた。


 ――私たちは小さくても、いつも誰かの味方でいて、いつも誰かに味方をされて生きている。

 きっとそれが、支え合って生きるっていうことなんだ。



 美琴は真っすぐ顔を上げると、目の前で腰をさすっている部長に向かって大きな声で叫んだ。


「部長! だから“滑落注意”って言ったでしょうが!」





【完】
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