あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
親友の子供

 それから数日後。
 奏弥は秘書であるヒカルが怪我の為に休んでいる事から、一人で沢山の仕事をこなしていた。

 聖龍も忙しい日々を過ごしていて、少し疲れがたまっているようだった。

 
 そんな日の昼休。
 聖龍は昨夜寝不足気味であり、早めに昼食を済ませて戻ってくると椅子に座ってちょっと昼寝をしていた。

 心地よい日差しが入って来る中で、気持ちよさそうに眠っている聖龍は、まだ幼い面影が残っている少年のような寝顔である。

 コンコン。
 小さなノックの音がした。

 熟睡しているのか聖龍は気づかないまま寝ている。

 カチャッと、そっとドアを開けて誰かが入って来た。

「あら、都合よく寝ている…」

 入って来たのは幼すぎるデザインのワンピースを着た里菜。
 髪をふたつに結って、まるで小学生のような恰好の里菜はあきらかに異常さを感じる。
 だがメイクだけは大人のメイクをしている。

 足音を忍ばせて聖龍に近づいた里菜は、ぐっすり眠っているのを確認するとニヤッと笑いを浮かべた。

 眠っている聖龍に近づくと、携帯電話を取り出した。
 そして…

 眠っている聖龍の唇にかぶりつくようにキスをした!

 そのシーンを携帯電話のカメラで写した里菜は、勝ち誇ったように笑いを浮かべた。

「やっぱり、私と副社長は運命で結ばれているのよ」

 聖龍にキスした唇を何度も舐めながら、里菜は副社長室を出て行った。

 聖龍は気が付かないまま眠っている…。


 
 お昼休みが終わり。

 聖龍はそのまま仕事を続けていた。

 コンコン。

「失礼します」

 奏弥がやって来た。

「お疲れ聖龍。どうだ? 何か困っていないか? 」
「いや、全然大丈夫。城原さんがいない時は、ずっと一人で仕事していたし」

 仕事の手を止めふと顔を上げた聖龍。
 そんな聖龍を見て、奏弥はキョンと驚いた。

「聖龍…唇に口紅がついているぞ…」
「え? 」

 驚いた聖龍は引き出しから手鏡を取り出して確認した。

 鏡で確認すると、口の周りに真っ赤な口紅がついていて、まるで舐めまわした跡のようになっていた。

「なんだこれ…」

 驚きながら聖龍は口の周りについている口紅を、ティッシュで拭き取った。

 奏弥は口紅の色を見て、里菜がつけている口紅の色と同じである事を確認した。
 他の女子社員達は、真っ赤な口紅はつけていない。
 みんなほんのりピンク系や、赤でも薄い赤色をつけている。
 真っ赤な口紅をつけるのは里菜くらいしかいなかった。

「聖龍、もしかして千堂さんが来たのか? 」
「え? 来ていないけど。なんで? 」
「いや、千堂さんがいつもつけている口紅の色に似ているから」

 もしかして寝ている間に来たのか?

 ゾクっと寒気を感じた聖龍…。
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