夜這いのくまさん
「なんだ」不機嫌な声色で問う。

シェリーは申し訳ない気持ちになってあたふた弁解した。

「あんまりにも綺麗な字だから」

「変か?」

「ううん、素敵だなあと思って」

素直にそういうと、彼は虚をつかれたように固まり、耳だけ朱に染まった。

「あ、ああありがとう」

はにかんだように笑った顔がかわいらしい。緊張がほぐれるように、シェリーも微笑んだ。
そこから会話らしい会話もなく、もくもくと本を読み込んでいく。それは目の前にいる彼も同様だった。

女が一人で暮らしていくにはどうやってもハードルが高かった。

住み込みで働くことを前提に今は色々家の中を整理している。父親にはいっていない。
父親を捨てるつもりだからだ。貯金はしているが、働く前の初期費用が心もとない。もう三か月前だがなりふりかまっていられない。または都市に住んでいる男に見染めてもらうことも過ったが、それでは今となんら代わりがないと思った。だから自分だけで生きる術を見つけることが、必達の目標であった。「求人広告」「エーデル共和国地図」「薬草図鑑」などバラバラとした本を読んでメモをする。夕暮れ頃、閉館時間に差し迫り帰ろうとしたとき、目の前の彼は「家は近いのか」と聞いた。
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