夜這いのくまさん

2



結婚するのは三か月後に決まった。シャーレイだけが泣いていた。「あんまりだわ」とシクシク泣いていた。他の同い年の子たちは「生活が保障されているし幸せだよ」と。きっと母親に実態を聞いていないんじゃないかと思った。母親に恨みごとのようにきかされ、実際友人が心を病んでしまっていることをしっていればそんな発想にならないと思った。無知は罪だ。私は母と同じように仕事が終われば10キロ離れた都市まで歩いていき、そこの図書館で必死に身に着けたい情報を探した。レンガ通りを抜けた先の図書館はこの国随一といっても過言でないくらいに大きくて、誰でも入れるという素晴らしい場所だった。

何冊かピックアップして、読める場所を探す。初めは文字を覚えるために通ったのだ。その次は、計算。その次は…と生活に彩りをつけるために時間があれば通った。誰でも使えるためか貸し出しが出来ないのが残念だが、ここの都市に来ることがシェリーにとって勇気をくれた。いつかあの村から逃げ出せるんじゃないかと。淡い希望が、一気に現実に舞い込んできたことで今必死になっているが。

ただどの席も満席で、うろうろと空いている席を探す。一つだけ空いているところがあって、そこに座って前の席の人を見た。

……でかい。

村の人は平均してシェリーの頭一つ分くらいしか身長がないのだが、この人はゆうに私の頭三つ分くらいありそうだ。ただ、隣の人に広くて厚みのある肩幅が当たらない様に小さく身体を縮こまらせて難しい顔をして勉強をしていた。その体格に似つかわしくなく繊細な文字を書いている。私があんまりにも凝視していたからか、その視線に気づき顔をしかめこちらを見た。
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