湖面に写る月の環

10

「先日も、タレコミで超常現象のあったという現地へと向かったんです。二週間くらい前でしょうか。その時、私は運転手を務めました」
「そこに行ってから、不思議な事が起き出したと?」
「はい、そうです」
岡名の言葉を引き継いで、探偵少年が声を掛ける。さっきまで静かだったのに、まるでスイッチが入ったかのように彼は話し始める。
「もしかして、そこで何かしたのか?」
「鋭いね。流石探偵さんだ」
御見それいたしました、と笑う岡名。茶化すような声色だったが、その表情に朝食するような意図は全くない。二人の会話に、僕は心底驚く。
(凄いしっかりしているじゃないか……!)
僕といる時はもっと不躾な感じじゃないか! 依頼をくれ、僕は神だと叫ぶ、変わった姿しか見ていなかったからか、今目の前で真剣に聴取をしている姿に頭が追い付かない。人によって態度を変えるヤツは良くないと聞くが……ここまで来ると『仕事だからな』と納得してしまいそうになる。
「実は行くだけじゃつまらないし、こっくりさんでもしてみようって話になって」
「こっくりさんって、あの?」
「みんな知ってるやつで間違いないよ」
にこやかに頷く岡名は、こっくりさんの簡単な手順を話し始めた。探偵少年は「なるほど」と頷きながら、何かを書き記している。やっぱり見間違いじゃない光景に、僕は信じられない気持ちでしかなかった。
(悪い夢でも見ているんじゃなかろうか)
不意に吹く風が冷たくなってくるのを感じ、夢ではない事を再確認する。やっぱり、僕はこいつに舐められているのかもしれない。
(後で覚えてろよ)
完全に探偵のスイッチが入ったらしい少年は、どこからか取り出した例のノートに岡名の話を書き記している。その手際の良さと言ったら、彼が探偵業をしていると言われても不思議に思えないくらい。
(初めからこの姿を見ていたかったな)
――いやもう、本当に。
あんな風に絡まれるよりは幾分もマシだ。今すぐにでも入れ替わって欲しいと願うほどに。
「調査に行った場所は?」
「滋賀県にある高校です。もう使われなくなっていたんですけど、地元の人間にはホラースポットとして有名みたいで」
「へえ」
「向かった人数は?」
「えっと、私を含めて、にーしー……五人ですね」
「男性はあなただけ?」
「ええ。他は全員女性です」
淀みのない聴取の様に、僕は舌を巻く。
相変わらず敬語はついたりつかなかったりだが、情報を聞く頭の早さとそれを書き留める早さは天性の才能のようだ。本当に、いつものくだらない絡みはどこに行ったんだ。
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