湖面に写る月の環

11

(違いがありすぎるだろ)
「彼、随分と慣れているじゃないか」
「……そうだな」
こっそりと耳元で告げられるちゅう秋の感心したような声に、僕は頷く。癪だが――ものすごく癪だが、彼の言動がかなりサマになっているのは確かだった。
「今なら彼が探偵だと言われても納得できるよ」
「は!? お前、納得していないのに連れて来たのか⁉」
「もちろん」
(信じられない……!)
なんてことないように言うちゅう秋に、僕ははくはくと口を開閉させる。いつも何を考えているか分からないと常に思ってきたが、ここまで変人だったとは……!
「で、でも普通に案内してきて、依頼まで紹介してるじゃないか!」
「そこはほら。初対面で探偵って言われても、信じられるわけがないだろう? ドラマでもあるまいし、ましてや俺たちは未だ学生だ」
「同じことを思ったよ、僕も」
「ははっ、だろうな」
「君なら、僕よりも疑っていそうだ」と笑う彼に、僕は言葉を返すことは出来なかった。……だってそうだろう。未だに納得していないのは事実なのだから。
「だから、手っ取り早く彼の力を見ることにしたんだ。依頼を受けようが受けまいが、どっちでも良かったからね」
そう言って笑う彼は、やはりどこまでも上手で。「でも、これは予想外だったよ」と笑うちゅう秋は、もう既に彼が『探偵である』ことは疑っていないようだった。
(心が狭いのかな、僕……)
ただただ否定するだけして、信じない僕は、きっとガキなのだろう。
――いやでも。学生のうちに探偵なんて、有名なドラマや小説に当てられただけの妄言だと思うじゃないか。しかも、僕たちは未だ高校生で、彼は一学年下……つまり数か月前まで中学生だったのだ。そりゃあ、いろいろと疑いもしてしまうのは、仕方ないだろう。
「はあ……」
「どうしたの、ため息なんか吐いて」
「!」
ふとかけられた声に、背筋が伸びる。聞き覚えのある声の持ち主は、先ほどと変わらない目で僕の事を覗き込んできた。
(ち、近――っ)
「? どうしたの本当に。大丈夫?」
「だ、大、じょうぶ……」
「本当に? でも、顔赤いよ?」
熱があるのかも、と手を伸ばしてくる幼馴染。その指先が額に触れた瞬間、僕は勢いよくその手を叩いてしまい――ハッとした時には、もう既に遅かった。
乾いた音が周囲に響き、周囲の時が止まる。彼女の手の甲が僅かに赤くなっているのを見て、どうしようもない自己嫌悪に苛まれた。
(やって、しまった……)
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