湖面に写る月の環

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(彼女たちが……)
「どうしたの、真偉」
「あ、ううん。何でもないわ」
「何でもないって……こっちずっと見てたじゃん」
「そう、だけど」
身長の低い女性が白魚の彼女の背に触れる。ほっと息を吐いた彼女は、どこか緊張している様子だった。しかし、そんな白魚の彼女の反応に心配そうに目を向ける朝紀と呼ばれた女性は、ああでもない、こうでもないと悩ましい顔をしていた。それを白魚の彼女は少し申し訳なさそうに――けれど、どこか嬉しそうに見ている。
「本当に、大丈夫よ。だからそんな顔しないで」
「顔って、……え。もしかして、見えてるの?」
目を見開いてこちらを見る彼女に、私は一瞬躊躇ったものの小さく頷いた。
「……うん。朝紀の顔、ちゃんと見えるよ」
「ほ、んとうに……?」
「うん」
コクリと頷く白魚の彼女。しかし、朝紀の表情が暗くなるばかりで。まるで絶望でもしているかのような表情は、まるで自分の価値が無くなってしまったと言わんばかりだった。滑り落ちていく手が、力なく垂れる。それがどこか悲しくて、泣きそうになってしまう。
『―――ミツケタ』
「「「「!」」」」
頭上から降り注ぐ声に、彼女たちは全員で肩を震わせた。畏怖、恐怖、絶望――。そんな色が四人を取り巻き、呼吸すらも奪っていく。
『オマエノ、セイデ』
『クダラナイ』
『イナクナレ、ハヤク、ハヤク』
(――こ、怖い……)
止め処なく降り注ぐ声に、彼女たちの指先が恐怖で震える。怖くて上を見上げることが出来ない。背中に悪寒が走る。
(見たら、だめ)
そんな強迫観念に背中を撫でられる。ねっとりとした感覚に吐き気が込み上げてくるが、此処で反応してはいけないような気がして歯を食いしばる事で耐える。――嗚呼、駄目。気持ち悪い。
「「「真偉!」」」
焦った三色の声が聞こえ、ハッと見上げる。水面に写る歪な景色の奥で、三人は白魚の彼女の腕を引っ張っていた。白魚の彼女はゆっくりと顔を上げると、息を飲んだ。
「み、んな」
「大丈夫?」
「無理しないで」
「慣れないんでしょ、私らに掴まってれば?」
優しい言葉の数々。けれど、それに反応している余裕は、きっと白魚の彼女にはないのだろう。きっと彼女には見えているはずだから。――三人の首に黒い手が添えられているのを。
「――!」
ひゅっと息を飲む音が聞こえる。彼女の震える手が見えて心配が込み上げてくるが、水の中からじゃあ、何もしてあげられることなどなくて。得体の知れない恐怖が全身を支配していく。水の泡が少しだけ水の中を漂い、水面へと浮かび上がっていく。
『ミタ、ミタ』
『目ガ、合ッタ』
『オマエハモウ、逃ゲラレナイ』
「ッ!」
ぶわっと広がる嫌な雰囲気に息を飲む。――その瞬間、彼女たちは走り出した。
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