湖面に写る月の環

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頬が一気に熱くなる。自身の心情をしっかりと認識している事に、少しだけ悔しくなった。
「……僕にどうしろって言うんだよ」
扉に背を当て、ずるりとしゃがみ込む。参った、と言わんばかりに両手で顔を覆った。どうせ彼女は微塵も気になんてしていないのだろうが、想いを寄せる人間からすれば気になって仕方がない。トントンと規則的な音が、静かな部屋にまで聞こえてくる。その音と漂ってくる匂いに、ドキドキと心臓はより大きく音を立てた。
「三日、か」
短いようで長い日々になりそうな休日を思い、僕はため息を吐いた。急に決まった出来事だが、だからと言って女性である彼女を追い返すわけにはいかない。
(僕がちゃんとしなきゃっ)
――そう意気込んで、自分の気持ちに頑丈な蓋をした僕は、恐る恐る一階へと戻って行った。
キッチンに立つ彼女に声を掛けた時は心底驚かれたものの、「手伝う」と言えば、何だかんだと指示を出してくれるようになる。何とか作り終えて食卓につけば、目の前に彼女も座る。いただきますと手を合わせれば、彼女の「どうぞ」という静かな声が聞こえた。表情を盗み見れば、嬉しそうに微笑んでいて。
(……意味わからない)
カチャカチャと食器が静かに音を立てる。甲高い音を聞きながら、僕は気まずい空気に話題を探そうと必死になる。だが、共通点なんてない僕たちに話題なんてものはなくて、それも無駄に終わった。
「美味しいね」
「そ、うだな」
「……」
「……」
沈黙が痛い。何かを言わなければいけないと思いつつも、何も思いつかない自分に嫌気が差す。
(……食い終わったらどうしよう)
気まずい雰囲気のまま、この部屋に留まった方がいいのか、それとも自分の部屋に戻った方がお互いにいいのか。そもそも自分と彼女は――僕の一方的なものではあるけれど――喧嘩しているはずなのだ。ならば距離を取った方がいいのだろうが……。
『それじゃあ、よろしくね』
親に言われた言葉に、僕は頭を抱える。きっとこの一言に、彼女のこともしっかりと含まれているのだろう。それを裏切ることは僕のプライドが許せなかった。……僕が彼女を放置しておけないというのも少しはあるけれど。
「ねえ」
「っ、な、んだよ」
不意に話しかけられ、驚きに肩が震える。慌てて言葉を返せば、くすくすと笑う声が聞こえてくる。いったい何が面白かったのか。
「この前のテスト、どうだった?」
「あ、嗚呼……まあまあかな」
「そうなんだ」
「……お前、は」
「私?」
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