湖面に写る月の環

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――いや、彼等と言った方がいいだろうか。
岡名と『みやこ』のメンバーを思い出し、笑みを浮かべる。視線の先にある小さな池が、月を反射させる。三日月でも半月でもない、歪な形の月はまるで彼女たちのサークルのようだ。
ちゅう秋は、再び茶を口にすると、ほっと息を吐く。――そろそろ、終わりにしなければ。ここ数日で突然体調を崩してしまった祖母の事を思い、ちゅう秋は出来るだけ早めに解決できないか、思考を巡らせるのだった。

「それじゃあ、よろしくね」
ぽんと肩を叩かれ、父さんと母さんは嬉しそうに家を出て行った。残されたのは、家の全てを任された僕と――。
「よろしくね」
……何故か預けられた、幼馴染だった。
年に一回の家族旅行を計画していた彼女の親は、今回は何を思ったか僕たち家族にまで声をかけてきたらしい。旅行に行くことがそうなかった親は、これ幸いにとその誘いを二言で受け、あれよあれよの間に旅行の日取りが決まったのだ。
もちろん最初は僕も行く予定だったのだが……あんな事をした手前、顔を合わせるのは非常に気まずい訳で。しかし喧嘩しているなんて言ったら何を言われるか分からない。僕は学校の用事を理由に旅行に行けないことを告げたのだ。最初は渋られたが、最後には彼らも納得してくれた。そして擬似的ではあるが短い僕の一人暮らしが始まったのだが――気がつけば彼女まで残ることになっていたのだ。
(どうしてこうなった……!)
「それじゃあ、私たちも家に入ろうか」
「……」
にこりと笑みを浮かべる彼女に、僕は緊張から顔が強ばる。……あれだけ酷いことをしたのに、どうしてそんなに普通にしていられるのか。
「ふふっ。なんか、小さい頃に戻ったみたいだね」
「そ、う」
「それより、お腹空いたね。ご飯作ろうか」
「……」
笑みを浮かべる彼女に、僕はたじたじになる。そんな僕を余所に、彼女はエプロンを締めると手際よく作り始める。まるで自分の家かのように食材を取り出して調理を始める彼女を見て、気まずさに僕は自身の部屋へと戻った。パタンと扉が閉まる音を背に、僕は頭を抱える。
(なんでこんなことに)
というか、なんで彼女まで残ることになっているんだ。当然、学校の用事なんて僕が吐いた嘘なわけだし、それを彼女が知っているとも思わない。彼女が自身の家族との時間を蔑ろにするような人間ではないはずだし、仲違いをしたというのも聞いたことがない。――そんな事より。
(思春期の男女を同じ屋根の下に放置するとか、何考えてるんだよ……!)
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