湖面に写る月の環

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心臓がドクドクと大きく跳ねる。好きだと言ってしまいそうになる口を、慌てて中へと仕舞った。歯が唇を容赦なく噛み締めるが、それでも構わなかった。
「どうしたの?」
「い、いや。何でもない」
顔を覗き込んでくる彼女に、僕は視線をめいいっぱい逸らす。嗚呼、だめだ。心臓が鳴り止まない。口から想いが飛び出してしまいそうだ。このうるさい音が聞こえていないだろうか、変な顔していないだろうか。……なんて疑問が、次々に込み上げてくる。恋愛というのは、いつの時代も輝かしくて、厄介で、今にも目を背けたくなる。
「……ねえ、私も聞いていい?」
「え、あ、嗚呼……もちろん」
「──なんで私の事、避けるの?」
ふと、和やかな空気に陰が差す。こくりと無意識に息を飲んだ。……まさかそこを聞かれるとは思わなかった。ハッキリ言った方がいいのか。それとも言わずに誤魔化した方がいいのか。
(……分からない)
どうしたら彼女を傷つけずに済む? どうしたら彼女に嫌われずに──。
「お願い、教えて」
「っ」
「私、何か悪いことしちゃった?」
(あ……)
彼女の言葉に、僕は息を飲む。どうやったら傷つけないで済むか……じゃない。もう傷つけてしまっているんだ。取り返しのつかないことを、僕はもう彼女にしてしまっている。
(僕は、馬鹿だ)
「……ごめん」
「謝って欲しい訳じゃないの。ただね、理由を知りたくって……でも、言えないことならもう聞かないから」
泣きそうな声でそう呟く彼女に、僕はもう考えるのをやめた。考えても考えても答えが出ないなら、これ以上考えても意味が無い。その分、彼女を傷つけてしまうなら尚更。
「……嫌だったら、忘れて欲しい」
「う、うん」
「……好きだ」
しんと静まり返る部屋に、心音だけが響き渡る。ぎゅっと握りしめた手に、爪がくい込んだ。何も言わない彼女に、僕は顔を上げることが出来ない。
(早く何か言ってくれ)
そう願ってしまうくらいには、沈黙が痛くてたまらない。両手を強く握りしめていれば、彼女が息を飲んだ気配を感じる。ゆっくりと顔を上げれば、彼女と目が合った。
(ど、して……)
真っ赤になった頬は、今まで見たどの時よりも赤く熟れていて。
「……」
「な、にか……言ってくれ」
「う、ん……ちょっと、嬉しくて……」
口元を両手で隠す彼女の言葉に、僕は息を飲んだ。
(それって――)
「私も、あなたが好きです」
「え」
「付き合って頂けませんか?」
頬を染めながら僕の手を握る彼女に、空いた口が塞がらなかった。
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